女子ソフトボール界の大エース上野由岐子(38=ビックカメラ高崎)が16日、サプライズの仕掛け人となり、高校生の思いをかなえた。高川学園(山口)女子ソフトボール部員から同校の原香織監督(28)に感謝の思いを伝える場に、特別ゲストとして出て欲しいとのオファーを受けて快諾。部員と協力し、指揮官を驚かすことに大成功した。東京オリンピック(五輪)で金メダルをもたらすべく、思いも新たにした。

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未知のウイルスは高校生の夢舞台を奪った。全国高校総体(インターハイ)は中止。最大の目標が消えた喪失感は計り知れない。高川学園のソフトボール部員も特別な1年を過ごした。上野は契約するデサント社を通じ、その部員たちが、厳しくも、温かく支えてくれた原監督に感謝のサプライズをしたいと考えていることを聞いた。協力して欲しいとのお願いを受け、断るわけはなかった。

夕刻の視聴覚室。「インターハイは中止になったけど3年間短かった」、「ありがとうございます」。苦楽をともに歩んだ部員と原監督は、高校生活を振り返っていた。物寂しさ、感謝、そして、たどたどしさも漂う空気感の中、部員の1人が「実はスペシャルゲストを呼んでいます」と言った。室内のスクリーンに日本の大エースが映し出された。想像もしていなかったサプライズに、原監督は「なに、これ!?」と目を丸くした。

感染予防のため、群馬・高崎の寮からZoomでのリモート参戦だったが、上野は部員、そして指揮官から質問を受け、丁寧に答えていった。

-全国大会で常に勝つチームを作るには?

上野 ソフトボールは特別に1人すごい選手がいても、勝てるわけではない。毎日一緒に練習している仲間で助け合い、歯を食いしばらないといけない練習をどれだけ乗り越えてきたかが大事。ともに乗り越えたからこそ信頼感、チームワーク、絆が生まれる。それが最終的に強さになる。試合に出られなくても、ベンチで一生懸命に声を出してくれる仲間がいる。気持ちだけでは勝てないが、人は心がないと体は動かない。心も強化できれば、よりチームは強くなれるのではないかと思う。

原監督は野手出身。身をもって知らない投手の心理をひもといて、言葉にした。

-ピンチ、ボール先行の場面で投手への声掛けは?

上野 ピッチャーがボール先行している時はメンタル的にびびっている。打たれたらどうしようとか、ネガティブになっている事が多い。ピッチャーは他のポジションと違って特別。自分の気持ちをボールに伝えられるポジション。だから、どれだけ自分を信じてボールを投げられるか。その結果として、打たれても、バックには守ってくれる仲間がいる。信じて投げることが大事。気持ちで逃げないことを伝えるのが一番。

ソフトボール論だけでなく、他にも「好きな曲」「寝る前のルーティン」など素朴な質問にも答えていった。

コロナ禍による、たくさんの苦悩、我慢と向き合った高校3年生は、春から新生活を迎える。上野は「インターハイも無くなり、大事な思い出を作れなかったかもしれない。ただ、自分たちだけではなく、世界中がコロナと闘っている。決してコロナのせいにすることなく、こういう環境だからこそ、チャンスがあると切り替えて欲しい。いつもならできない事をできるチャンスを与えてもらっていると思って、新しい道を進んで欲しい」。そうエールを送った。

今年は自身にとっても、特別な1年になる。東京五輪がある。

「世界中がコロナと闘っているからこそ、勇気付ける意味も含め、オリンピックの開催は大きな意味があると思う。ソフトボールは金メダルを期待されている。それに応えられるパフォーマンスができるようにしたい」

開催には否定的な声も多いが、五輪は何事にも変えられない力、意味があると信じるから、はっきりと言える。

今回はトップアスリートが人の夢をかなえる企画「#DREAM with Team DESCENTE」で高校生と交流した。

「背中を見られる立場。そういう姿を見てもらいソフトボールに興味を持ってもらったり、ソフトボールをやっている子どもが、ソフトボールをやっててよかったと思ってもらえるようにしたい」

強い信念を貫き、次世代への思いをつないでいく。【上田悠太】