今季限りで第一線から退く山梨県代表の河西萌音(22=山梨学院大4年)が、涙のラストダンスを舞い切った。

「本当に今日の演技も、技の失敗、成功どうこうじゃなく、私の見せたい演技ができれば、伝わればいいなと思って臨みました」

冒頭の3回転ループ-2回転トーループを美しく決めると、続く3回転フリップも成功。昨年11月の東日本選手権フリーでは挑まなかった技を決めた。それでも、最も気持ちを込めたのは表現だ。無観客でも客席の四方に視線を送り、映画「アラジン」のジャスミンを演じ、笑顔でステップ、得意のスピンを重ねた。キスアンドクライでは、涙がこぼれた。

「伝わったか分からないですけど、私なりに気持ちのこもった演技ができました。多くの人に見てもらえる機会が今日で最後。1人でも多くの人に『私の演技を見て良かった』と、見てもらった時間が無駄にならないように、アラジンの世界観を表現しました」

73・65点の合計117・15点だった。

この大会を最後に引退すると決めていた。あふれ出たのは、岩本英嗣コーチ(40)への感謝の思い。小学校1年から師事し「始めた時から、ずっと見てもらって。なかなか同じコーチが続くことってない。最初から最後まで、は先生の中でも初めてだったみたいで。なので、今日は特別な時間にしたかった。たぶん、公式戦というか全国大会に出るのは最後。今までありがとうございました、と伝えました」と思いを届けた。

「始めたころから話すと長くなるんですけど」と笑いながら、万感の言葉は続く。「厳しい時は厳しく、オフはオフ、気持ちの切り替えをすごく言われて、人間としても成長させてくれた方です。スケートだけでなく人間としても成長させてもらった先生。ずっと、もう16~17年は教わっているので、家族以上に時間を過ごしている人だと思います」と師弟愛を口にした。

ラストシーズン。昨秋の地元山梨での東日本選手権は14位。慣れ親しんだ小瀬だったが、17年以来2度目の全日本選手権には届かなかった。「あの全日本が最初で最後になるとは思ってなかったけど、憧れの舞台に立てたのは今後の人生の糧になると思います」。一方でショートプログラム(SP)は29位でフリーに進めず。「心残りは…先生(岩本コーチ)をフリーに連れていってあげられなかったこと。でも、出られたことだけでも幸せだったのかな」と思い出は尽きなかった。

現在はセント・フォースに所属する姉歩果さん(24)を追い、始めたフィギュアスケート。気付けば大学4年まで続けてきた。卒業後は未定な部分もあるが「スケートには携わる」ことは決めている。「とりあえずは、山梨のスケート人口が少ないので。小さい子を教えたりしていきたいと思います」と普及活動に力を注ぐ。

全国舞台での演技を全うし、思うことは-。

「スケートなしでは、今の私はない。これからの道を明確に決めてくれた、成長させてくれた、それがスケートです。欠かせない存在です。つらかったこと、嫌だったこと…決して練習が好きなタイプではなかったんですけど、好きなことを、ここまで続けられたことは良かった。これからの人生の、いろいろなことに役立つと思っています」