異例ずくめの東京オリンピック(五輪)・パラリンピックが幕を閉じた。8月5日、東京都の新型コロナウイルス新規感染者は初めて5000人を超えた。それでも緊急事態宣言下の街にはどこか楽観的な空気が流れた。なりふり構わぬ招致活動で東京開催をセッティングした安倍晋三前首相、言葉足らずの菅義偉首相はこの1年で次々と政権を投げ出し、リーダーの使命があらためて問われた。誰のため、何のための大会だったのか-。パンデミック下の“祭典”を識者に検証してもらう。

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東京五輪期間中の8月3日に出演した番組(TBS系「Nスタ」)で、菅義偉首相と小池百合子都知事に対し「2人とも至急お辞めになった方がいい」と発言しました。政府がコロナ患者の入院対象を重症者に限定し、中等症患者は自宅療養にすると方針転換(同5日に「医師の判断」と修正)したのに、頭にきたのです。あんなことを言われたら、普通の医療従事者は、みんな怒ると思います。

新型コロナウイルスは、感染症法に基づく指定感染症なので、保健所が管理しなくてはいけないんですが、発熱した患者さんが医療機関を受診したくても、現状は感染者が増え過ぎて電話で保健所に聞いてもアクセスできない。都内で8月上旬に約1000人の陽性者を搬送できなかったという報道もあります。国民の誰もが体調が悪ければ、いつでも受診できる体制を作ってきた国民皆保険制度、日本の医療制度が見事に崩壊している状況の中、東京五輪を開催したわけです。

我々は、あくまでも医療の現場から、医療をちゃんとやってくれという立場でものを言っているわけです。選手、運営、ボランティアや手伝いに行く医療者も、みんな良かれと思って大会をやっているわけで、それは決して悪いことではない。ですが、いろいろな状況の人たちの現状を分かった上で、全体として問題を見た時に何をするのが国民のためになるか? という視点が、政府には当初からずっと欠け続けています。国民に自粛のお願いしか出来ていない一方で五輪をやったのだから、音楽フェスや夏の全国高校野球の開催、夏休みの旅行に行くことなどを、国民が当たり前だと思ってしかるべき。国は、お願いの効果を減弱させるようなことを併せてやっちゃっている。指定感染症は外出自粛の要請が出来るという感染症法=法律も守られない状態まで放棄し、最悪の状況の中でパラリンピックまでやったのです。

昨春の第1波の時に、当時の安倍晋三首相がロックダウンに近い強い自粛要請を行いましたが今の状況はそれより、よほどひどい。昨年3月に東京五輪を1年延期しましたが、医療現場の逼迫(ひっぱく)具合を見るともう1年、延期して欲しかった。根本的な政策として、決められた病床数は削減で動いておきながら、増やせというのも全くナンセンス。長期的な対策が明らかに欠落している。病床数を増やすなら、1年延期した段階で診療報酬改定をして、地域の許可病床数を見直して人を育て、増やしておくべきでした。

国はコロナ対策において短期、中期、長期の対策を何もしてこなかった。また国際オリンピック委員会(IOC)と組織委も、やり方とか進め方が非常に場当たり的で、無責任で、自己中心的だと思いました。関係者と外部を遮断する「バブル方式」も、そういう言葉だけ作って、何かぬるい方法だけが発展して、コロナ対策をしたつもりになっちゃっているんでしょうね。どさくさ紛れでやるんだというIOC、JOCの国民の声を無視したやり方は共感を得られない。今後、五輪とIOCとのあり方が問われてくる大会になるのではないかなと思います。(聞き手=村上幸将)

◆倉持仁(くらもち・じん)1972年(昭47)栃木県宇都宮市生まれ。1998年(平10)に東京医科歯科大医学部を卒業。00年の青梅市立総合病院、04年に東京医科歯科大呼吸器内科などを経て、15年にインターパーク倉持呼吸器内科クリニックを開設し院長。

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