東京オリンピック(五輪)の個人総合を史上最年少で制した橋本大輝(20=順大)が、初優勝を逃した。6種目の合計で争う個人総合決勝で、合計87・964点。あん馬の落下などを、他種目の好演技で補ったが2位。僅差で、同世代の張博恒(中国)に敗れた。今日23日からは種目別の決勝に臨む。

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心で戦っていた。「負けるかな…」。最終演技者として迎えた鉄棒の演技前。橋本は1つ前の張の得点に、完璧な演技でないと届かない現実を目の当たりにした。負の感情に流される寸前、気持ちを強く持てた。「最後にベストを出そう。やりきろう」。そう思えた。そして、バーを握った。

腕の疲れを如実に感じながら、離れ技を5回決めた。「いまできる最大の演技を」。観客の視線を独占し、最後に大きく空中に体を舞わせた。着地はわずかに左に一歩動いた。完璧ではない。ただ、幾度も拳を振って、ガッツポーズを繰り出した。やりきれたと思えた。2種目目のあん馬で「集中力のなさ」で落下も、以降の4種目は納得する演技を並べていたことも、前向きにさせた。

新型コロナウイルスの影響で五輪が一年延期になり、初めて世界選手権が同一年に開催された。五輪の個人総合上位10人で、参加は橋本を含めて2人だけ。避ける選手が大半でも、新王者として臨んだ。疲労の蓄積はあった。

「ただの自分の調整力のなさです」。言い訳を避けたが、9月にも大学の大会があり、金メダリストの行事も多く、ゆっくり休養する時間はなかった。練習で思うように体は動かなかった。家では自室に戻る元気もなく、居間でうとうとする姿もあったという。

メダリスト会見では張を横目に「彼がチャンピオンにふさわしい」と認めたが、「でも…」と言葉を続けた。「来年から、新しく頑張る理由が見つかった。いろんなライバルがいて、強くなれる。経験を糧にしてやりたい」。強がりではない。タイトな日程を言い訳にせず、弱さに向き合う覚悟だった。

今日23日からは床運動、あん馬、平行棒、鉄棒で種目別決勝に挑む。誓うことは1つ。「メダルの色に関係なく、やりきってこの試合を終えたい」。【阿部健吾】