22年北京冬季五輪の最終選考会となるフィギュアスケートの全日本選手権は23日、さいたまスーパーアリーナで開幕する。

注目が集まる種目の1つが五輪代表1枠を争うアイスダンス。4連覇を目指して夫婦で取り組む小松原美里(29)、尊(30)組(倉敷FSC)、今季のグランプリ(GP)シリーズNHK杯で小松原組を上回る6位に入った結成2季目の村元哉中(かな、28)、高橋大輔(35)組(関大KFSC)が出場する。

正確なエッジ(スケート靴の刃)ワーク、ターン、2人の動きの調和などが求められるカップル種目。06年トリノ、10年バンクーバー五輪のアイスダンスに審判員として参加した元ISU(国際スケート連盟)ジャッジの加藤真弓さん(73)に、ジャッジ目線で見るそれぞれの強みを聞いた。【取材、構成=松本航】

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歩みの異なる2組のカップルが、日本最高峰の舞台で競演することになった。

3連覇中の小松原組は3月の世界選手権で日本の五輪1枠をつかんだ。米国出身で20年に日本国籍を取得した尊は身長187センチ。161センチの美里を持ち上げるダイナミックなリフトに加え、加藤さんの目には今季、成長の跡が見えたという。

「リフトはもちろん、スピード感が増してきた印象があります。昨季はプログラムの最後の部分で失速しているように見えましたが、今季はスピードが持続できています。練習の成果だと思いますが、滑り込んできたことが伝わります」

リンクサイドに座って採点する面々には、それぞれの役割がある。かつて加藤さんが務めた「ジャッジ」はリフトやステップなど指定された必須要素のGOE(出来栄え点)を判定し、スケート技術、音楽の解釈など全5項目で成り立つ演技構成点(各10点満点)をつけていく。

一方で「テクニカル・スペシャリスト」「アシスタント・テクニカル・スペシャリスト」は、それぞれが男性選手、女性選手を担当。要素のレベル判定を行い、例えば「ターンは正確であるか」「レベルが上がる要件を満たしているか」といった具合に個々の技術にシビアに目を光らせる。「テクニカル・コントローラー」はレベル判定や転倒などの全体を網羅し、実施した要素の内容とレベルを確定する責任者。加藤さんは「わかりやすく言えば、3名で構成されるテクニカルパネルは必須要素のレベル要件や正確さなどを判定する役割を担い、対してジャッジはスケート技術、2人の一体感、音楽との調和、振り付けの質やプログラム全体の出来栄えを評価します」と説明し、小松原組に言及した。

「2人の距離がとても近く、ツイズル(多回転の片足ターン)の正確さも武器。ユニゾン(調和)がすごく良くなっています。尊選手は以前、身長差のために腰が引けていた部分が改善され、姿勢が良くなっている。美里選手は表情、指先の使い方が美しいです。今季は技術の向上とともに、自分たちの個性や良さが発揮できています」

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結成2季目の村元、高橋組は今季、国際大会2試合を経て価値を高めてきた。

11月のGPシリーズNHK杯で初のISU公認スコアを得ると、続くワルシャワ杯で演技構成点を伸ばした。ジャッジ7人は全員が外国籍だったが、リズムダンス(RD)、フリーダンス(FD)ともに全5項目で8点台。NHK杯はRDが全5項目、FDが5項目中2項目で7点台だった。

NHK杯を現地で見守った加藤さんは、表現の面で2人の研ぎ澄まされた感性を実感していたという。

「アイスダンスはシングル以上に音を捉える力が必要になります。曲のリズムを繊細に表現できなければ、滑りがきれいでも、得点が上がってこない。高橋選手、村元選手はシングル時代から細かな音を取れる印象がありました。そこに敏感に反応できる点は、世界で戦うのに欠かせません」

リフトの安定などアイスダンスの基礎技術向上に加え、ジャッジ目線で滑りの質の高さを感じるという。

「それぞれが長年磨いてきた、エッジワークの良さを感じます。深いカーブを描くことができて、ガサガサとした音が鳴らない。スピードを出す時に『一生懸命出す』のではなく、これまで磨き上げた、巧みなエッジワークで、緩急をつけられている印象です。2人の距離感も昨季に比べて、近くなってきました」

すでに持っていた感性に、技術が合わさり始めた。

「今季は作品としての完成度が非常に高くなりました。RD(ソーラン節&琴)の選曲と振り付けは唯一無二の作品。オリジナリティーがあり、個性的です」

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RDは23日午後2時50分、FDは25日午後3時40分開始。加藤さんは2組だけなく、個性あふれるカップルの演技を心待ちにする。

「特にFDは全ての出場組が創意工夫をして、その2人にしか出せない作品を見せてくれます。技術面だけでなく、演技構成面と音楽表現を楽しんで見ていただけたらと思っています」

得点はもちろん、演技ににじむ魅力もかみしめたい。

 

◆アイスダンス北京五輪への道 日本代表は1枠。今年3月の世界選手権で小松原組が19位に入って出場権を獲得した。最終選考会を兼ねる23日開幕の全日本選手権参加が必須。以下の条件で総合的に選ばれる。(1)全日本の最上位組(2)全日本終了時点の世界ランキング最上位組(3)全日本終了時点のシーズン世界ランク最上位組(4)全日本終了時点の今季ベストスコアの最上位組。

 

◆アイスダンス フィギュアスケートのカップル種目。男性が女性を持ち上げるリフト、スピン、ステップなどの技術と表現力で競う。ペア種目とは違ってジャンプがない。リズムダンス(RD)はシーズン課題のリズムを滑り、フリー(ダンス)は音楽を自由に選ぶ。日本の五輪最高成績は06年トリノの渡辺心、木戸章之組と18年平昌の村元、クリス・リード組の15位。