フィギュアスケートのアイスダンスで全日本選手権4位の平山姫里有(きりあ、22)、立野在(ある、24)組(倉敷FSC)が28日、自身のSNSで現役引退を発表した。

かつて4大陸選手権にも出場した立野は、左肩の故障で2018年夏に1度は引退。アシスタントコーチとして活動していたが、教え子で引退を考えていた平山と2020年春にカップルを結成し、現役復帰した。2人にとって、2月開幕の北京オリンピック(五輪)を目指した2シーズンの価値は何だったのか-。日刊スポーツのインタビューで、互いの思いを明かした。【取材・構成=松本航】

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年越しの余韻が残る2022年1月4日、2人は拠点の岡山国際スケートリンクにいた。曲選び、振り付け、技術指導まで全てを担当してくれた有川梨絵コーチ(41)の到着前、立野は平山の意志を確認した。3人で今後について話し合い、再び2人になった。平山の意志は揺らがなかった。

立野「姫里有の『この2年間、やっていて良かった』という言葉を聞きました。正直、僕は続けたい気持ちもありました。でも1人がやりたいと思って、続けるものでもない。引っ掛かっていた部分が、その一言でほどけた気がしました」

平山「自分の中で引退は決まっていました。やり切ったので『これ以上は…』という思いからです。2年間、ずっと『日本が拠点でも、アイスダンスはできる』と伝えたかった。結果だけついてきませんでしたが、岡山で頑張り切れたと思います」

愛称「きりある」の最後の演技は2021年のクリスマス、さいたまスーパーアリーナで行われた全日本選手権となった。フリーダンス(FD)は「シェルブールの雨傘」。滑り込んできた演目を演じきり、観客からの拍手に包まれて、それぞれに充実感があった。

立野「『ここで悔いを残すのは嫌』と思っていた。『やりきれた~!』というのが、率直な感想でした」

平山「『現役はここまで』と思ってきて『やりきれた!』と感じられました」

唯一の心残りが「結果」だった。合計147・39点は、表彰台まで0・90点。五輪シーズンの今季が区切りと決めていた2人だったが、立野はわずかな差に「内容としては自分たちの演技、滑りを見せられた。ただ、結果だけが悔しかった」と心が揺れた。そうして年始の話し合いに至った。

東京出身の立野と、岡山出身の平山。歩んできた道は異なっていた。

カナダを拠点としていた立野は左肩の故障により、1度は現役を引退。有川コーチの下でアシスタントを務めるため、岡山にやってきた。当時の平山には別のパートナーがいた。だが、相手の就職を機に、2019年の全日本選手権を最後に引退しようとしていた。

2020年春。肩の調子が上向きになっていた立野は「自発的に『北京五輪に行きたい』と心の底から思った。それに『姫里有がやめるのは、もったいない』とも感じていました」と平山を誘った。最初は敬語で話してきた教え子を説得し、2人で歩もうと決めた。

ちょうどその時期、2010年バンクーバー五輪銅メダリスト高橋大輔(35)の転向により、アイスダンスに注目が集まり始めていた。世間の関心度の高まりに比例し、競技人口を増やしていかなければ、長期的な目線の発展は見込めない。インスタグラムなどを用いてファンとの交流を積極的に行ってきた2人は、その点を大切に考えてきた。

立野「日本国内でしっかりと練習をして、作品を披露する。『これだけの物を作れるんだ』というのを伝えたい思いはありました」

国内に環境がなく、海外を拠点とするカップルが多いアイスダンス。元選手である有川コーチは労を惜しまず、支え続けてくれた。

平山「この2年間、全部1人で先生がやってくださいました。いろいろなことがあっても『私はあなたたちの味方だから』と言い、尊重していただきました」

目標の五輪には届かなかった。それでも2人の表情には充実感が漂った。最後には少し照れくさそうに、互いへの思いを口にした。

立野「『復帰しなきゃ良かった』と思ったことが、1回もなかったんです。姫里有じゃなかったら、成立しなかった。組んでくれて、2年間続けてくれて、本当にありがとう」

平山「在くんが声をかけてくれなかったら、2年前に引退していました。まさか組むとは思っていなかったけれど、これも巡り合わせだと思います。在くんと組めて、良かったです」

引退後、立野はスケートに携わる道を考えている。平山は「やりたいことがありすぎます」と笑い、スポーツ関係の仕事、カフェでの勤務など、じっくりと将来を考えていく。それぞれが2年間の価値をかみしめ、次の道へと進む。

 

◆インスタライブ 2人は28日午後9時半(予定)から「インスタグラム」のライブ機能を使って、ファンに直接思いを伝える。

 

◆平山姫里有(ひらやま・きりあ)1999年(平11)3月31日、岡山・倉敷市生まれ。小1でスケートと出会い、小4でのアイスダンス挑戦をきっかけに岡山市へ引っ越した。18年全日本選手権ではアクセル・ラマッセ(フランス)と組んで2位。19年は石橋健太とのカップルで同3位。趣味は料理。150センチ。

 

◆立野在(たての・ある)1997年(平9)8月29日、横浜市生まれ。物心がついた頃には都内で暮らす。スケートは小3で本格的に始め、小6でアイスダンスに転向。深瀬理香子とのカップルで14年から全日本ジュニア選手権3連覇。シニア1年目の17~18年シーズンは全日本選手権3位、4大陸選手権11位。18年夏に左肩の故障で現役引退。20年春から平山とカップルを組んで復帰。170センチ。