女子53キロ級の新星、藤波朱理(19=日体大)が、24年パリ・オリンピック(五輪)へ前進した。

21年世界選手権優勝の藤波は決勝で元世界女王の奥野華菜に5-0と快勝。3年連続3度目の優勝で公式戦の連勝を106まで伸ばし、偉大な吉田沙保里と伊調馨に迫った。男子はフリースタイル65キロ級を東京五輪王者の乙黒拓斗が制し、グレコローマンスタイル60キロ級は同五輪銀メダルの文田健一郎が優勝した。

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藤波がパリ五輪に向けて圧倒的な強さを見せた。前日行われた2試合をともに10-0のテクニカルフォールで制し、この日の決勝では準決勝で東京五輪金の志土地真優を破った奥野と対戦。相手の粘りに苦しみながらも5点を奪い、パリ五輪へスタートを切った。

「勝ち切ることができてホッとしています」。大会前には不安もあった。8月末に左足甲のじん帯を損傷し、10月には左ひざの炎症とケガ続き。9月の世界選手権と10月の23歳以下世界選手権を欠場し「不安もあった」つらい日々を思い出して涙までみせた。

17歳で世界選手権を制した新星は、今春日体大入りした。同時に三重・いなべ総合学園高時代の監督だった父俊一氏(58)が日体大コーチに就任。親子でのパリ五輪挑戦が始まったばかりでの挫折だった。

「練習ができずにつらそうでしたが、逆にレスリングをやりたいと思えたようです」と俊一氏。本格的な練習復帰は1カ月前。志土地にも奥野にも「研究されているのは想定内」。天性のセンスと急成長したフィジカルで勝ち切った。

中学2年から積み重ねた連勝は106。同じ三重県出身で同じ53キロ級の吉田沙保里が持つ日本女子記録の119、伊調馨の108に肉薄。来年にも更新するのは間違いない。「数字は意識していません」と藤波は言うが「励みになるので」と父。五輪3、4連覇の偉人に並ぼうとしている。

「パリ五輪選考会」と銘打たれた今大会は、パリへの第1歩。この大会と来年6月の全日本選抜に勝てば来年の世界選手権代表に決まる。同大会でメダル獲得なら、そのまま五輪代表になる。「パリのために教員を辞めて東京に来たんですから」と父が言えば、この日の父の誕生日に優勝を贈った藤波も「パリで金メダルをとることしか考えていません」と言い切った。【荻島弘一】

◆藤波朱理(ふじなみ・あかり)2003年(平15)11月11日、三重県四日市市生まれ。4歳でレスリングを始め、中学生の頃からタイトルを総なめ。19年に父俊一氏が監督を務める三重県立いなべ総合学園高に進学し、22年に日体大入り。鋭いタックルが武器だが、相手に触れされないディフェンスも抜群。兄は17年世界選手権フリースタイル74キロ級銅の藤波勇飛。164センチ。

◆レスリング日本女子の連勝記録 個人・団体戦を含めた記録では、吉田沙保里の02年から08年に団体戦で敗れるまでの119が最多。伊調馨が07年から16年1月の国際大会で不戦敗するまでの108が次ぐ。吉田は個人戦だけに限れば206連勝、伊調も負傷による不戦敗を除けば189連勝している。日本男子では64年東京五輪金の渡辺長武が60年から87年までに記録した189連勝が最多。

■元木が世界女王尾崎破る

女子62キロ級優勝の元木咲良(育英大)は「パリ五輪に近づけた」と話した。9月の世界選手権は非五輪階級の59キロ級で銅メダル。五輪目指して階級を上げ、準決勝で東京五輪金の川井友香子、決勝で世界選手権優勝の尾崎野乃香に勝って「挑戦者の気持ちで攻め続けたのがよかった」。父康年氏は00年シドニー五輪グレコローマン63キロ級代表。「父のように五輪に」と話していた。