<東都大学野球:中大12-4東洋大>◇第5週最終日◇6日◇神宮

 投げる精密機械と呼ばれた前ロッテ小宮山悟氏(44=日刊スポーツ評論家)が、今秋ドラフトの超目玉、中大・沢村拓一投手(4年=佐野日大)を初めて生観戦し、今すぐプロのローテーションに入れると絶賛した。これまで映像と写真でチェックはしていたが、早大在学時以来という東都大学リーグ観戦で、あらためて能力の高さを評価した。沢村は最速153キロで9安打12奪三振4失点(自責1)の完投勝利。日米11球団スカウトの前で、首位東洋大から勝ち点を奪い、04年秋以来の優勝に大きく前進した。

 中大・沢村は現状のレベルで、プロのローテーションに入れる。速い球を投げる投手には、緩い球をコントロールできないことがありがちだが、それが彼には見られなかった。この試合の与四球は1つ。それも8回2死からだった。カウントを悪くしても焦らず、整えることができる。安心して見ていられる。アマチュア選手の技術としては、完成品といえるだろう。

 立ち上がり早々、1番の左打者(東洋大・坂井貴文外野手)に左への本塁打を許した。速球を5球続けた5球目、高めに入った153キロだった。もっとも、その打球はフォローの風に乗ったもので、強い当たりではなかった。ボールが高めに行けば、速くても打たれるということだ。本人はいきなり本塁打されて慌てたかもしれないが、あれは気にすることはない。

 フォームも理にかなっている。問題点はない。ただ打者に向かって左足を踏み出して行くときに、上半身も同じように出ていく。上半身がもう少し遅れて出てくれば、打者からすればタイミングがとりづらいし、打ちにくい。150キロが160キロにも感じられるかもしれない。上半身のねじりをギリギリまで粘って欲しいが、それは欲を言えば、ということで決して欠点ではない。

 欲を言うついでにいわせてもらえば、左腕をもっと上手に使えたら、もっと緩い球、例えば緩いカーブをマスターすれば、ということも挙げられる。ただ、あれだけ速い腕の振りをする投手が、より緩いボールをコントロールするのは難しい。できれば鬼に金棒だろうが、現状の変化球でも通用するし、悪いということではない。

 私が見た今年のアマ球界の投手では、沢村がNO・1だ。早大にもドラフト候補が3人(斎藤佑樹、大石達也、福井優也)いるが、現状の力でいえば、沢村が上。投手としての完成度で上回っている。故障さえしなければ、プロのレベルでも十分に通用する楽しみな投手である。(日刊スポーツ評論家)