奈良県の高校野球は、長らく私学の2校がけん引してきた。天理と智弁学園。春夏合わせて奈良県勢は、のべ121度甲子園に出場しているが、天理と智弁学園だけで計81度。2校の他に夏の甲子園に出場したのは、わずか6校。聖地を目指す紫と朱の戦いが、幾度も繰り広げられてきた。

   ◇    ◇   

 05年7月16日、夏の奈良大会。天理と智弁学園が1回戦で対戦した。後にも先にも、いまだ唯一の1回戦での対決。「事実上の決勝戦」は天理が5-1で勝利し、そのまま頂点まで駆け上がった。翌日の日刊スポーツ紙面には、試合当日の様子が書かれている。

 天理-智弁学園が行われた橿原球場は、5000人の大入り満員となった。外野席も開放して観客を入れたが、内野通路も立ち見でいっぱい。大会関係者は「決勝での大入りはありますが、1回戦から外野まで開放したのは過去には例がない。好カードが(休日の)土曜日に組まれた結果でしょう」とうれしい悲鳴を上げていた。

 両校の戦いは常に、多くの高校野球ファンの注目を集める。紫色で「天理」、朱色で「智辯」と胸に大きく描かれた両校のユニホームは、球児の憧れだ。

 15年から天理の監督を務める、元近鉄、阪神の中村良二もその1人だ。80年8月20日、当時小学6年生で福岡に住んでいた中村は、ふとテレビで甲子園の試合を見た。天理と横浜の準決勝だった。

 中村 雨が降っていて暗いのに、天理のユニホームの紫がすごく映えて。俺、このユニホームを着て甲子園出たい、と思ったのがその試合です。

 天理は1-3で敗れたが、強烈な印象を残した。84年に天理に入学した中村は、3年時に主将として春夏連続で出場し、夏は奈良県勢初の全国制覇を果たした。しかし1年生だった84年は智弁学園に春の準決勝で3-13、夏の準決勝は3-8で敗れた。2年夏も決勝で敗戦。3年間で天理が甲子園に3度出場するなか、智弁学園も4度出場。当時も激しい戦いがあった。

 06年から智弁学園の監督を務める小坂将商は「天理に負けたくないと思っているし、(天理も)智弁に負けたくないと思っていると思います」と話す。天理との対戦には、投手戦のイメージがないという。16年夏の決勝は、智弁学園が6-5で勝利。6-2の9回に、天理が3得点し猛烈に追い上げた。昨夏は、準決勝で対戦し天理が8-7で勝利。今度は反対に、8-4の9回に智弁学園が3点を奪い、あと1歩まで迫った。

 17年夏の準決勝で敗れた直後、小坂は中村のもとを訪れた。「今日は参りました」。ライバルに潔く負けを認める姿、智弁学園に対するプライドも感じ、中村率いる天理は奈良大会決勝も勝ち抜き、甲子園4強までたどり着いた。中村は智弁学園との対戦に「指導者として楽しいです」と話す。好敵手と認め合うからこそ出る言葉だろう。

 甲子園出場は天理が春夏通算51度、智弁学園が同30度だが、智弁学園は16年のセンバツで甲子園初制覇を果たすなど、近年は全国でも実力を見せている。直近の対決は今年の春の県大会準決勝。智弁学園が10-0と投打で圧勝した。夏も智弁学園が強さを見せるか、天理が巻き返すか。はたまた虎視眈々(たんたん)と狙う高校が…。戦いは続いていく。(敬称略)【磯綾乃】

 ◆奈良の夏甲子園 通算81勝56敗。優勝2回、準V0回。最多出場=天理28回。

天理VS智弁学園比較
天理VS智弁学園比較
天理・中村良二監督
天理・中村良二監督
智弁学園・小坂将商監督
智弁学園・小坂将商監督
05年、天理対智弁学園戦は大勢の観衆が集まった
05年、天理対智弁学園戦は大勢の観衆が集まった