若手の登竜門-。ウエスタン・リーグが開幕した。目指すは1軍デビュー。注目したい選手は数々いるが、その中でも大きな期待を寄せていた1人がマウンドに上がった。

 阪神横山雄哉投手(21)だ。左投げ、左打ちの大物ルーキー。今季、新日鉄住金鹿島からドラフト1位で入団。3月20日、鳴尾浜球場での2軍本拠地開幕戦(対中日)登板は期待のあらわれだ。前評判はすこぶるいい。特に球威があり、角度ある直球には、あちこちから絶賛の声が聞こえてくる。アマチュア時代、昨年の都市対抗で5者連続三振を奪った。21U侍ジャパンの代表に選ばれ、W杯では10イニングで20奪三振の快投を演じた実力派。そして、先日行われた阪神でのシート打撃登板でも打者10人に対し、7三振を奪っている。魅力十分。私としては初めてお目にかかるが、この日は1軍のオープン戦がナイターとあり、1軍から和田監督も視察に来た。山口1軍投手コーチも目を光らせていた。果たして結果はいかに。

 いざフタを開けてみると、先頭の左打者にいきなりストレートの四球だ。球が高めに浮く。コントロールにはバラツキがある。抱いていたイメージとはかなりのギャップがあった。試合前の取材はこうだった。

 まず、掛布DC。「球に力がある。素晴らしい角度で右バッターの内角に食い込んでくる。普通にストライクが入ったら、ファームでは打たれないと思いますよ」。制球にはもう一度念を押したが大絶賛だった。

 アマチュア時代、横山をずっと追いかけてきた佐野スカウト統括部長もかなりのホレ込みようだ。「1番いい球はストレートですね。スピードガンでの球速はあまり大きな数値は出ないと思いますが、球が生きています。まだ若いので少々時間はかかるかもしれませんが、近い将来は左ピッチャーのトップに立っていると思いますよ」。

 これだけお褒めの言葉を聞けば、いやがうえにも注目したくなる。身長183センチ、体重84キロ。恵まれた体格に加え、柔らかい投球フォーム。期待は膨らむばかりだったが、意に反してボール球が先行する。好評のスピンの効いた、威力あるストレートの片りんを時々見せてくれたが、4球、5球とは続かなかった。

 試合後、横山はこう話した。

 「フォームのバランスは悪かったし、体の切れも良くなかった。意識して腕を振っても球威は戻らなかった。和田監督が来ておられたのは知っていますが、それは今日のピッチングには関係ありません。それより、そこで結果を出せなかったのは僕の弱いところかな。でも、プロで先発としてやっていく以上、気持ちを切り替えるのは大事なこと。少々点を取られても勝つことに執着したい。そういう意味では打たれた中でも踏ん張れた(大量点を与えなかった)のは収穫です。何事も勉強です」

 投球内容は4イニング投げて、被安打6、四球1、三振2、失点2(自責点2)。本調子とはいかずとも、悪いなりに試合を作り、チームの勝利に貢献した。首脳陣に評価を聞いた。

 山口1軍投手コーチは「ブルペンではスピンの効いたすごいストレートを投げているのに、僕が見に来たときの試合ではどうも内容が悪い。でも、あのストレートが投げられるということは、伸びしろはまだいっぱいあるということですよ」と、首をかしげながら話してくれたものの、期待は大である。

 久保2軍投手コーチは「今日は確かに良くなかったが、あの出来で2点に抑えたんだから、投手としていいセンスをもっているということです。トントン拍子で行くと、この世界を甘く見てしまいがちになりますから、どこかで打たれた方がいいと思っていましたので、全く心配はしていません。ハート(精神)の方もしっかりしていますから」。なるほど、一理ある発想だ。

 プロ野球界で、選手が身につけている素材は貴重な財産である。素質に至っては、この世界に入ってくる人は誰もが平均点以上のセンスを持っているが、チームの柱になれる素材(投手)か。それとも5番手、6番手止まりの素材(投手)か。素材とはまだ製材されていない原料を指す。はたして、身につけている素材から見た横山は…。ストレートはピッチャーの命。阪神の大黒柱になれる原料に期待したい。

横山雄哉(写真は2015年3月20日)
横山雄哉(写真は2015年3月20日)