1軍ペナントレースの開幕間近-。各チームの選手も“開幕1軍”の切符を手にしようとハラハラドキドキ。ゲームの中でも目の色が変わっているのをひしひしと感じる。鳴尾浜球場でのウェスタン・リーグ公式戦1軍か、2軍か。当落線上にいる選手の気持ちは穏やかではない。そんな渦中にいる阪神狩野恵輔外野手に注目してみた。

 阪神でも数人が競い合っている。1軍の経験が豊富な今成、伊藤隼もいる。昨年同リーグでホームラン王に輝いた陽川。高山と同期の板山も、虎視眈々と狙っている。その中で開幕にきっちり照準を合わせてきた選手がいた。さすがベテラン。今年17年目“代打の神様”狩野である。キャッチャーとして前橋工からドラフト3位で入団。2009年には127試合に出場。一時は正捕手の座をつかみかけた年もあったが、腰痛に悩まされ椎間板ヘルニアの除去手術を受けて再起にかけた。ままならない体。治療と体力強化に取り組んだが、2013年は育成登録を余儀なくされた。

 苦労人である。少々のことではヘコタレない。今季のキャンプはファームからのスタートだった。年齢的に気分を害しかねない扱いともいえるが、逆に狩野にとってはプラス材料となった。現在おかれている立場は、代打専門だ。野手の人数が少なければ少ないほどバッティング練習はたっぷりできる。代打屋にとっては申し分ない環境。「ハイ、十分打ち込めました」がその証。3月にはいってからの教育リーグ(ファームの練習試合)でも、調子はいまひとつあがってこなかったが、1軍の開幕がすぐそこまで近づいてくると、ウェスタン・リーグの公式戦突入と同時に徐々に調子をあげる。開幕2カードのソフトバンク、広島戦でも打率は3割をキープしていたが、鳴尾浜に帰ってくるや一気に爆発した。

 ホームグラウンドでの初戦、対中日1回戦では6番・DHでスタメン出場。3打席目で左翼線へ2塁打すると、次打席で右前打、続く最終打席では2死1、2塁から左翼防球ネットに突き刺さる逆転決勝の1号3ランを放ってエンジン全開。翌日の2回戦では2塁に走者を置いて、本職の代打で登場すると三遊間をゴロで抜くヒット。相手の外野手がかなりの前進守備をとっていたため、打点にはならなかった、ついに勝負師の本領発揮だ。

 掛布監督「調子はいい状態になってきましたね。勝負を決めるホームランも打ちましたし、彼の立場からいうと代打でも、ランナーがいるところでヒットが出ましたし、気持ちのうえではかなり楽になったと思いますよ。あとは上(1軍)のゲームでヒットを打てば乗っていけるでしょう。やっぱりねえ、僕も現役時代そうでしたが、公式戦でホームランが出るまではどうしても不安でしたから、だから狩野もいま状態はいいですから、1軍でヒットが出れば乗っていけるでしょう」と太鼓判を押した。

 狩野本人は「調子はまだ納得のいくところまでいってませんが、初戦のホームランを含む3安打で、多少は楽になりましたかねえ。でも、あの試合の3安打より、2試合目のランナーを置いた場面で、ピンチヒッターでヒットが打てたというほうが気分がいいですね。もちろん、1軍でヒットが打てればいうことありませんが、ファームであっても試合で絶対打ってやろうという気持ちは、1軍と同じですから」だったが、あくる日にはお呼びがかかって1軍に合流した。

 オープン戦も最終戦ではあったが、今季初の1軍ベンチ。ファームスタートのキャンプ調整に狂いなし。17年目の生え抜き、今季選手会長に就任。そうだ日本一になった1985年を思い出した。現川藤OB会長の存在だ。チームのムードがしぼみかけると、あのとぼけた独特のキャラを発揮する。遠征先、負けゲームで帰宿する静まりかえったバスの中、マネジャーが翌日の予定を選手全員に伝えると、わかっていながら聞いていないふりをして、わざと聞き返す。沈みかえっていたムードが一変。笑いを誘って気分転換になった。チームの浮き沈みはムードに左右されがち。そこで、OBからの注文。代打要員は試合の流れを冷静に見渡せる。狩野よ。本職で期待に応えるのは当然だが、同OB会長同様の“ムードメーカー”になってほしいね。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)