元ロッテの里崎智也氏(野球評論家)の「ウェブ特別評論」を掲載中。25回目は「ドラフト通信簿」です。

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 きょうから日本シリーズが開幕する。大舞台で活躍する選手もかつては運命のドラフトを経験してきた。ドラフト指名の選手を見れば、どこに補強ポイントを置いたか、チーム状況が自然と浮かび上がる。

 全体的に今年のドラフトは、パ・リーグにメディアで取り上げた注目選手が流れた印象だ。満点ドラフトの球団も抽選でくじを2度外した球団もあったが、私なりに気付いた点をまとめてみた。

【パ・リーグ】

 リーグ制覇の日本ハムは、田中、佐々木を抽選で外したが、1位堀は高校生の実力派左腕。U18でみせた完璧救援で評価は上昇した。

 ソフトバンクは文句なし。5球団競合した田中正義を獲得、けがさえなければ即戦力だ。2位の古谷は高校生投手で将来性あり。3位の九鬼は捕手部門では目玉だった。主力捕手の細川、鶴岡、高谷が35歳前後とベテランの域に入った。斐紹(あやつぐ)ら若手はいるものの、世代交代の時期だからこその3位指名だったと思う。

 外野手は、選手層も厚いがどちらかと言えば内野がちょっぴり薄い。高校生内野手の4位三森は、その点を考慮したか。内野は切羽詰まっておらず、外国人助っ人で補強すればいい。三森は将来性を買っての高校生指名。1位が思い通りにいけば、スムーズにいくのは当然。育成は3軍制を敷くホークスらしくパ最多の6人指名。

 ロッテは佐々木をうまく1位で指名できた。最初の1位入札で佐々木が漏れるとは12球団の誰もが予想しなかったと思うが、結果オーライ。投手が足りていないチーム事情もあり、先発、中継ぎもこなせる佐々木が登板チャンスに恵まれる可能性は高い。3位島、5位有吉は地元千葉の高校出身で地域密着を目指す球団のカラーが出たか。ロッテが千葉で今まで以上に愛される球団となるためには必要な戦略だ。気になるのは1位から6位までが投手指名。いくら投手事情優先といえども今江、クルーズの穴は埋まっていない。昨年、平沢を獲得したが、1人ぐらい野手を指名しても良かったのではと思うが、どうだろう。

 西武は見事な甲子園V腕一本釣りだった。私が見た中では今井(作新学院)は高校生NO・1。あの細身の体が大きくなればパワーがつき、まだまだ球速も上がる。前橋育英で甲子園優勝投手の高橋光成と2人が育てば将来の柱として期待がもてる。それにしても、群馬出身の渡辺久信シニアディレクター(SD)は北関東の選手が好きだなと…。

 楽天も悪くない。1位藤平もいい投手だし、2位の池田はチームメート田中正義の露出度が高すぎて存在が若干薄れた感があるが好投手だ。12年ドラフト2位からエースにのし上がった則本のようなストーリーも見えてくる。私の母校、帝京大出身の6位鶴田には特に頑張ってもらいたい。

 オリックスは、高校時代にメジャー選手がセンスの良さに目を付けた東京ガス・山岡を1位指名。今季、防御率最下位に沈むチームの救世主となるか注目だ。東京ガス勢は先輩に巨人内海、ロッテ石川と好投手も多く、それに続く存在として期待される。

 また、パでは西武以外が捕手を指名した。日本ハム、ソフトバンク、楽天は高校生を、オリックスは社会人、ロッテは大学生を指名。日本ハムは主力の大野が20代、楽天も足立が伸び盛りとあり高校生指名か。オリックス、ロッテは即戦力が欲しいということだろう。各球団、捕手には苦しんでいるようで特に2番手捕手が手薄に思える。

【セ・リーグ】

 広島は、2位高橋昂也を指名できたのが良かった。甲子園の投げっぷりを見たが、角度のあるクロスファイアは魅力的。鍛錬を積めば伸びしろは大きい。ヤクルト1位の寺島と似たタイプの左腕だが、努力次第ではドラフト順位とプロでの活躍度が入れ替わる可能性は十分だ。

 巨人は1位で、田中、佐々木と2度外しながらも野手NO・1の呼び声高い吉川を指名できたのは良かった。今季好成績の村田が35歳と年齢的な不安が残る。クルーズもけがなどで安定せず、今季は内野のやりくりに四苦八苦しているように見えた。

 個人的には7位の201センチ右腕、リャオが気になる。超隠し玉で他球団に気付かれていないという理由で7位なら、存在を知られていたら上位だった可能性もある。また、2位以下は投手ばかり。投手に不安があるからの偏りなのか。田中か佐々木を指名していれば、全員投手だった可能性もあった。

 DeNAの1位浜口はいい真っすぐを持った左腕だと聞いている。今永とダブルサウスポーで先発の軸に育てば楽しみ。年齢的にも高校、大学、社会人とバランス良く指名できた。浜口や即戦力がハマれば、今季以上の「DeNA旋風」が起こるかも知れない。

 阪神は、田中か佐々木とドラフト前まで報道されていた気がするが、結果論とはいえ佐々木を1位指名すれば一本釣りだったという心残りもあるのでは。それにしても1位大山指名には驚いた。金本監督の「1年目は厳しいと思う」とのコメントがあったが即戦力を外してでも将来性が上回ったということか。

 ヤクルトは1位指名の寺島を真中監督がほしかったのだろう。履正社の先輩、山田の存在も大きく、寺島にとってはプレーしやすい環境ではないか。夏の甲子園後のU18W杯では非凡な打撃センスも見せており将来性も十分。二刀流にも期待している。6位菊沢も注目だ。所属は軟式野球の相双リテックだが、立大時代は硬式。特に問題はない。右肘手術、早朝の配達、米独立リーグなどプロ野球の門をようやくたたいた苦労人。28歳で成功する夢をかなえてほしい。年齢的にも短いプロ生活でどれだけやれるか。まずは開幕1軍切符だ。

 中日は2リーグ制以降、初となる2桁投手ゼロ、規定投球回数クリアした投手ゼロと不名誉な珍事も。そんな中、抽選で明大・柳を1位指名できたのは大きい。1位柳と2位京田は開幕から1軍にいなければチームとしても厳しい状況だろう。

 勝手ながら個人的にドラフト通信簿をつけさせていただくと、1位はソフトバンク。バランスいい指名で1位田中が指名できればシミュレーション通り。相手の動向を見ながら余裕のドラフトとなっただろう。2位はロッテ。大阪ガスコンビの2位酒居、4位土肥の評判がいい。“地元高校生”も指名でき、内野手は欲しかったが佐々木も1位でいけたし上々だった。3位は西武。高校生NO・1今井の単独指名は大きい。甲子園の優勝投手は少なからず「持っている男」。甲子園優勝コンビの高橋光成と2人で投手王国再建に期待したい。


 最後に…。2016年のドラフト指名が当たりだったかどうかの正解は、5年先、10年先の各球団の選手の顔ぶれを見てからになるのだが。


 ◆里崎智也(さとざき・ともや)1976年(昭51)5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現鳴門渦潮)-帝京大を経て98年にロッテを逆指名しドラフト2位で入団。06年第1回WBCでは優勝した王ジャパンの正捕手として活躍。08年北京五輪出場。06、07年ベストナインとゴールデングラブ賞。オールスター出場7度。05、09年盗塁阻止率リーグ1位。2014年のシーズン限りで引退。実働15年で通算1089試合、3476打数890安打(打率2割5分6厘)、108本塁打、458打点。現役時代は175センチ、94キロ。右投げ右打ち。

(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「サトのガチ話」)