息子もまた父と同じように甲子園の三塁ベースをめがけてヘッドスライディングした。そして黒土にユニホームを汚した。

高崎健康福祉大高崎(群馬)の初優勝で幕を閉じた2024年のセンバツ。31試合の中で、特に印象に残ったシーンがあった。阿南光(徳島)の福田修盛外野手(3年)が熊本国府との2回戦で初回に決勝の適時三塁打を放ち、ヘッドスライディングをした場面だ。父章さん(49)も前身・新野のレギュラーとして92年センバツでヘッドスライディングをしていたのだ。

阿南光は前身の新野と阿南工が統合し、18年4月から誕生した。今春は初戦を突破し、勝てば春夏通じて同校初の8強入りをかけた試合で福田のバットから先制点を挙げて気迫のヘッドスライディング。「甲子園は楽しい。ユニホームを汚したいなと。気持ちいい汚れです」と試合後は笑顔だった。

親子の姿がかぶった。アルプスに応援に来ていた章さんに話を聞くと、「僕も2回戦の三重高校戦で右中間に三塁打を打ってヘッドスライディングしたので、たぶんしたかったんやろなと」と笑った。ユニホームこそ変われど母校で親子での甲子園出場に「幸せですよね。自分の母校で親子2代で出るのはなかなかないと思う」と心から喜んだ。

32年前、章さんがヘッドスライディングをする姿は当時の日刊スポーツ紙面でも掲載されていた。それも2度。1回戦横浜戦の同点ホームイン時、そして2回戦三重戦で一塁から一気に三塁を狙った時。当時は2回戦敗退だったが2試合ともに「1番遊撃」でスタメン出場し、2回戦では三塁打を放ち、チーム唯一の得点を挙げていた。

父の影響で始めた野球。高校生になり自らも甲子園の土を踏んだ。2回戦を前に「2回戦で負けたので借りを返してくれ」とメッセージを受けていた。そして決勝打。父同様の気迫プレーには「知っていました。ちょっと意識していましたし、甲子園でヘッスラしたいなと」とにやり。父と姿を重ね合わせた上に最高の親孝行を果たす殊勲打に胸を張った。

「自分もいつかはその舞台に立ってプレーしたい」と願っていた憧れの舞台。同校初の甲子園8強入りを決めたワンプレーはさまざまな思いがつまっていた。【林亮佑】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「野球手帳」)

アルプススタンドから応援する阿南光の福田修盛外野手の父章さん
アルプススタンドから応援する阿南光の福田修盛外野手の父章さん
第64回選抜高校野球大会 新野対三重 現役時代の福田章さんは中越え適時三塁打を放ちヘッドスライディング
第64回選抜高校野球大会 新野対三重 現役時代の福田章さんは中越え適時三塁打を放ちヘッドスライディング