投手歴1年のエースで初の甲子園を狙う! 酒田光陵(山形)の右腕小野紫音(しおん=3年)は昨夏まで正捕手を務めていた。小山大央監督(40)に地肩の強さを見込まれ、新チームからマスクを脱いでマウンドへ。今春の県大会では4試合に先発し、防御率1・85の力投で4強進出に貢献した。開校4年目の夏、同校の歴史に新たな1ページを刻む。

 春の県大会、強肩捕手からエースに変身を遂げた小野が躍動した。4試合で先発し、34回を投げ計7失点。「腕が振れていた」という自慢の直球で、失点はすべて2点以内に収めた。3位決定戦で山形城北に敗れ初の東北大会出場は逃したが、抜群の安定感を発揮した。

 迷いはなかった。小山監督から転向を告げられたのは昨年8月初旬だった。「実は捕手が嫌いだったんです。投手になれてうれしかった」。西荒瀬小3年からキャッチャー一筋で、投手経験はゼロ。2年生だった昨夏は正捕手を務めた。小山監督は「そのままやっていたら県を代表する捕手になっていたと思うが、甲子園に出るには力のある球を投げる投手が必要だった」。小野の地肩の強さにほれて、マウンドを託す決断をした。

 転向直後、8月7日の弘前工との練習試合で実戦登板した。5回161球を投げて21安打16失点と散々だった。「ずっと打たれ続けた。もっと練習しないと」。当時は130キロ前半の直球1本。ぶっつけ本番で臨んだ秋の県大会は準々決勝まで進んだが、米沢中央に3-6で敗れた。「けん制やプレートの外し方を知らなかった。捕手をやってたから分かってたつもりだけど、実際やってみるとボークになりそうで」。学ぶべきことは多かった。

 だがひと冬を越えて大きく成長した。マウンドさばきを覚え、カーブ、スライダーも習得。コンパクトなテークバックから手元の見づらいフォームも固まった。184センチの恵まれた体でスリークオーターから繰り出す直球は、最速137キロまでアップした。

 春の県大会後は、変化球の制球に磨きをかけてきた。6月下旬、今春のセンバツに出場した大曲工との練習試合では2安打完封。投手として迎える最初で最後の夏へ、調子は上向きだ。「自分がしっかり投げて、甲子園にいけるように」。エースの自覚を胸に、小野がチームを初の聖地へ導く。【高橋洋平】

 ◆小野紫音(おの・しおん)1997年(平9)8月13日、山形県酒田市生まれ。西荒瀬小3年から野球を始め、酒田一中では捕手として県選抜メンバー入り。酒田光陵では1年秋から背番号2でレギュラー。184センチ、82キロ。右投げ右打ち。

 ◆山形県立酒田光陵高校 酒田工、酒田商、酒田北、酒田中央の4校が合併して2012年(平24)設立。普通、工業、商業、情報の4科に分かれ、生徒数1223人(女子560人)。授業は旧酒田中央の校舎、野球部の練習は旧酒田北のグラウンド。部員69人。所在地は酒田市北千日堂前字松境7の3。阿部進校長。