阪神近本光司外野手(29)が25日、全国の離島支援に取り組む一般社団法人「LINK UP」(リンクアップ)を立ち上げることを自身のSNSなどで発表した。理事として参画し、社(兵庫)時代の1学年先輩で代表理事を務める石井僚介氏(30)とタッグを組んで、故郷の兵庫・淡路島や自主トレ地の鹿児島・沖永良部島から活動の輪を広げていく。日刊スポーツなどのインタビューで今後の展望などを明かした。【取材・構成=中野椋】

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近本の夢プロジェクトが始まった。全国の離島支援を目的に、一般社団法人「LINK UP」を設立した。近本自身も淡路島出身の「島っ子」。社、関学大、大阪ガスと島外での経験が人生の糧になっている。だからこそ、離島で育った子どもたちへ、届けたい思いがある。

近本 日本の離島の子どもたちに人生の選択肢を増やしてほしい。島だけでは解決できない課題を僕たちが架け橋となって地域活性につなげたい。「つなげる」とか「仲間になる」という意味を込めて「LINK UP」にしました。

これまでも故郷の淡路市在住者を甲子園に招待する「近本シート」の実施や、淡路島や自主トレ先の沖永良部島の子どもたちを対象にスポーツ教室を開催。23年には社会貢献活動やファンサービスに取り組む選手を表彰する球団制定「若林忠志賞」を受賞している。

ただ、「現役中だけでなく引退してからも続けたい」という思いから、その活動基盤として今回の一般社団法人立ち上げに至った。

近本 あと何年かしかできない現役の期間だけしか活動できなかったら、その次の子どもたちは受けられない。僕がいなくなっても活動が続けば、離島が衰退していかなかったり、活性化していくんじゃないかと思っています。そのきっかけになることができれば。

近本が出資する他、離島支援の理念に賛同する企業からの協賛金を原資に、離島の子どもたちへ向けたイベントの実施が主になる。個人が支援に参加できるコミュニティーの形成も検討中。いずれも、近本がユニホームを脱いでも持続的な支援をしていくための方策だ。今夏には淡路島、沖永良部島の子どもたちを球場に招待予定。縁の深い2つの島から活動の幅を広げる。

現役の近本の本職は野球だ。そこで自らの「左腕」としてタッグを組んだのが、社時代の1学年先輩で代表理事を務める石井氏。社では石井氏が中堅手として右翼近本の隣を守った。その後、アメリカンフットボールの世界に飛び込み、社会人時代は日本代表でプレーした経験を持つ。23年5月に石井氏から引退報告を受けた近本は「僕と一緒にやりませんか?」と即アタック。石井氏も「思いに応えたい一心」で引き受けた。

石井氏 ビジネスの世界で僕よりも優秀な人間はたくさんいる。その中で声をかけてもらったのは非常にうれしかった。彼が不安を感じることがないよう頑張っていきたいです。

近本 プロ野球選手になる前から知っていたのは大きかったです。自分の考えや方向性を共有しているので、一番信頼できます。

兵庫の公立校から生まれた絆。二人三脚で、日本全国に支援の輪を広げるつもりだ。これからは離島の子どもたちに「お手本」を示す意味でも、プロ野球界で走り続ける必要がある。

近本 夢であるプロ野球選手を最後まで、あがいてあがいてやり切るところを子どもたちに見せてあげたい。スパっとやめてしまったら、子どもたちに何て言えばいいのかなってすごく思う。できる限り、長くやりたい。今活躍している近本を見ないと分からないじゃないですか。引退してしまったら頑張っているところを見せられない。現役中、最後までには全国の離島に(支援が)いければと思います。

◆「LINK UP」 石井僚介氏が代表理事を務める一般社団法人。阪神近本は理事として参画する。「ふるさとに恩返しを」をビジョンに掲げ、近本個人が出資する他、離島支援、地方創生に賛同する企業からの協賛金を原資に離島への振興活動を行う。今後は個人単位でも支援に参加できるコミュニティーの形成も検討する。詳しいお問い合わせは公式サイト(https://linkup-ckr.com)まで。

◆石井僚介(いしい・りょうすけ)1993年7月17日、兵庫・小野市生まれ。中学時代は父の仕事の関係で米国へ。米国でも野球を続け、甲子園に出たいという思いから社(兵庫)に進学し、3年春は兵庫県大会準優勝。主に中堅手として右翼手近本の隣を守った。大学でアメリカンフットボールに転向。社会人でも競技を続け日本代表にも選出された。現役時代は身長181センチ、体重88キロ。

◆阪神選手の主な社会貢献活動 岩貞は熊本地震の「復興支援」と「子どもたちへの野球振興」を目的に、17年から毎年、義援金や野球道具を同県で活動する少年野球チーム、少年野球を運営する団体へ寄贈。原口は18年末に患った大腸がんから復帰したことを機に、小児がん医療ケア施設への訪問などの社会貢献活動を続けている。その他にも青柳、岩崎、西勇ら多くの現役選手が社会貢献活動に参加している。一方で、近本のように現役中に一般社団法人を立ち上げるのはレアケース。鳥谷敬氏は、現役時代から一般社団法人「レッドバード」に理事として参画し、フィリピンなどアジアの恵まれない子どもたちのために使われなくなった靴を集めて現地に贈る活動を展開した。