濃密な1時間32分が小豆島の春を彩った。えんじ色のアルプス席を背に、樋本主将は黒土を丁寧に集めた。「アルプスと一緒に校歌を歌いたかった。土はお世話になった人に配りたい」。選手17人は応援団の姿と声援を胸に刻み込んだ。

 1点及ばなかった。3回1死三塁では、中前適時打で先制点を献上。それでも先発長谷川が8回8安打2失点と粘った。2点を追う9回は、1死一塁で6番阪倉が遊撃強襲安打。打球を左翼が後逸する間に、一塁走者の石川が本塁を踏んだ。だが、後続が倒れた。

 09年夏。同年春に小豆島へ赴任した杉吉勇輝監督(32)が指揮官に就任した。当時の部員は8人で「とにかく部員を確保し、野球の楽しさを教えたかった」と腹をくくった。長時間練習の撤廃に髪形の自由化。1年目の公式戦は0勝だった。それでも選手のノックを自身が受け、慶大で培った野球観を共有。部員との絆は、楽しさに野球の向上心を植え付けた。

 たどり着いた甲子園は地元を1つにした。小豆島は来春、島内の土庄と統合する。杉吉監督は「島の人を見て、本気で勝とうと思った。だからこそ悔しい」と夢の舞台を通過点に変えた。聖地1勝を目指す夏への戦いが始まった。【松本航】

 ◆21世紀枠同士の対戦 13年1回戦の遠軽(北海道)3-0いわき海星(福島)に次いで2度目。