女性監督がドラマのような初勝利を飾った。第98回全国高校野球選手権(8月7日開幕、甲子園)西東京大会で、東京電機大高が明法に3-2でサヨナラ勝ちし、就任6年目の市川麻紀子監督(43)が悲願の初勝利を挙げた。0-2の9回裏、1点差に迫り、なおも2死二、三塁で、2番の瀬能悠翔内野手(3年)が右中間へサヨナラ打を放った。

 女性監督は土壇場のシビれる場面にも、冷静さを失わなかった。2点を追う9回裏。1点を奪い、なおも2死二、三塁。打席に向かう瀬能に、こう声をかけた。「結果は気にせず、思い切り振ってきなさい」。このひとことが効いた。打球は右中間を破る二塁打となって2者生還。逆転サヨナラ勝ちで勝利をつかんだ。

 市川監督には就任6年目につかんだ初勝利だった。「あの子(瀬能)はしっかり振れば打てるんで」と自らの指示を説明した。もっとも勝利の瞬間は記憶がなかった。「覚えてないんです。2死だったし、まさか決めるなんて」と照れくさそうに笑顔を見せた。

 開始直後から積極的にサインを出した。1回、バントで送った1死二塁から走らせ、成功させた。4回にも、無死一塁で走らせた。「そんなに打てない。1死三塁の場面をつくることを考えています」。試合前のシートノックでは、自らバットを振った。「練習してきました」。

 東学大時代にはソフトボール部に所属、捕手を務めた。全国大会に4年連続で出場している。東京電機大中で12年間、軟式の監督を任された。そんな実績があっても「女性だということで奇異に見られることはありますね」と語る。

 もっとも14人の部員にそんな意識はない。サヨナラを決めた瀬能も「気にはなりません。練習メニューも考えてくれるし、ソフトボールの経験者ですから。最後も指示通り、何も考えずに振りました」。瀬能には3年目にして初の公式戦勝利。涙を流して喜んだ。

 「次は13日、しっかり切り替えて準備して臨みましょう」。試合後、市川監督がナインに話しかけた。女性監督はやっとつかんだ初勝利に酔うことなく、すぐさま次戦を見据えた。【米谷輝昭】

 ◆市川麻紀子(いちかわ・まきこ)1973年(昭48)6月19日生まれ。東学大ではソフトボール部に所属。98年から10年まで東京電機大中の野球部で監督を務めた。11年から東京電機大高で指揮を執る。生物科教諭。