高校硬式野球で「東北初」の女性監督が誕生した。今春から宮城・涌谷に阿部奈央監督(25)が就任。父輝昭さん(56=石巻北監督)の影響で幼い頃から野球に親しみ、高校時代(石巻)は男子部員に交じり、硬球を追いかけた。初采配となった22日の春季県大会東部地区予選では、初戦で母校の石巻に敗退したが、11人の部員とともに日々、勝利を目指して奮闘中だ。

 小雨の降るグラウンドで、小柄な女性がノックバットを振る。26日の午後だった。「雨の日の試合だってあるよ! 送球を意識して」。阿部監督は大声を出した。外野ノックはマウンドに近づいて前から打つ。それでも、柔らかいスイングからきれいな放物線を描いて打球が飛ぶ。「キャッチャーフライは難しいですけどね」と笑った。

 宮城水産などで監督を務め、現在は石巻北で指揮を執る父輝昭さんの影響で幼い頃から野球に触れた。中学ではソフトボール部で投手として活躍。進学した石巻にはソフトボール部がなく、「どうしても選手としてプレーしたくて」硬式野球部に入部。体格差の限界を感じて、マネジャーに転身し、練習ではノックをして男子選手をサポートしていたという。

 東京女子体育大に進み、昨年4月、体育教師として涌谷に赴任。いきなり野球部の部長を任された。「ソフトボール部かなと思っていたが、教員の数の関係で野球部になった。嫌な気持ちはなかったです」。今年3月、前監督が異動し、監督に就任した。「初めは自信がなかったが、1年間見てきた選手たちのためにやるしかないなと思った」。

 今春、福島・湖南にも女性監督が誕生したが、部員は9人に満たない。阿部監督のように公式戦で采配を振った女性監督は、東北各県の高野連関係者も「過去に記憶がない」と口をそろえた。榊田千大主将(3年)は「みんな奈央先生が監督になると思っていた」と言い、「先生を支えようと(選手に)自覚が出た」と話した。家でも専門書を読んで勉強するなど、野球漬けの日々を「充実しています」と笑顔で話す阿部監督。29日、地区大会の敗者復活戦で石巻工と対戦。まずは監督として初勝利を目指す。【林野智】

 ◆高校野球の女性監督 近年、全国各地で増えつつある。昨夏の西東京大会では東京電機大高の市川麻紀子監督が、就任6年目にして初勝利を挙げた。また京都では、洛南の山村真那監督が府初の女性監督として采配を振った。新潟では08年に、長岡農の井上麻子監督が夏県大会で2勝を挙げている。