平成最後のセンバツは東邦(愛知)の勝利で幕を閉じた。「センバツプレーバック」と題し、担当記者たちが熱き戦いを振り返る。全4回でお届けする。

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星稜(石川)は優勝した東邦と同じくらいのインパクトを残して2回戦で甲子園を去った。林和成監督(43)が相手のサイン伝達の疑念を公に表明し、敵将に直接抗議に乗り込んだ件が世間を騒がせた。

教育者としてもスポーツマンとしても、明らかに間違った行動だった。「私がこだわり過ぎた」と選手の平常心を奪ってしまったことを反省した。ただ、林監督の人となりに触れるほど合点がいった。純粋に、ルールやマナーにもとる(と思った)ことを見逃したくなかったのだと思う。

真っ正直で、まっすぐな人間だ。昨夏の甲子園で敗れ、ミーティングで「1曲歌ってええか」と、かりゆし58の「オワリはじまり」を歌い上げたのは有名。浪花節な演出だが、選手たちは心から感激したと振り返る。監督は愛車の中で今も、この曲を繰り返し聞いている。歌詞にある「やり残したことはないかい」の思いを最後に伝えて、送り出したい一心だった。

8年前の監督就任以来、新入部員の親には「野球以外の大事なものを学んでもらいます」と伝えてきた。伝統の厳しさを受け継ぎながら、自由を与えることで個性を伸ばす指導に特化してきた。星稜の選手は実に伸び伸びとしている。

移動バスの中では球場到着7分前からムードメーカーによるリズムネタが始まり、笑いの渦ができる。試合前夜には決まって、控え選手らのお笑いネタで一体感を出す。ホームの場合は自校グラウンドで行うが、監督は離れた場所から笑みを浮かべて眺めている。時にはこっそりスマホで動画を撮っていることも…。「カズナリさん」と親しみを込めて呼ぶ選手がいることも記者は知っている。

今年の星稜は石川県勢初の全国制覇の期待を受けるが、これまで以上の重圧と厳しい視線を浴びるだろう。「まっすぐ」な林監督がどうチームを導くのか注目していきたい。【柏原誠】