新型コロナウイルス感染のため、今夏の第103回全国高校野球選手権石川大会出場を辞退した星稜が14日、金沢市内の同校グラウンドで3年生の引退試合を行った。3年生は伝統のユニホームを着用し、1、2年生チームと対戦。3点を追う9回、意地を見せた。

攻撃前、円陣で林和成監督(46)が言う。「数々の修羅場を乗り越えてきたお前たち。最後に逆転を見せてくれ!」。先頭の岡野翔陽投手が右前打で出塁。四死球で満塁機を築き、小林青空外野手が押し出し四球で1点をかえし、中谷大翔捕手の中犠飛で1点差に詰め寄った。だが、反撃はここまで。来年3月のセンバツ出場が有力の1、2年生相手に善戦及ばず、3-4で惜敗した。試合後、指揮官は3年生にエールを送った。

「最後、黄色いユニホームを着て、今週、天気が悪かったけどな。最後は日差しも差して、いい環境のなかでたくさんの保護者が見ているなかで、最後、ここでプレーして終われたのは非常に思い出深い1日になったと思う。俺も今年度で退任することを決めて、お前たちとこうやってやれるのも俺自身も印象に残る。一生、忘れることがない3年生だ。今日、ノックを打ちながら、ちょっと震えていたんだけど。こうやって黄色いユニホームを着てここでノックを打つのは今日が最後だなと。3年生の君たちに打てたのは、非常にうれしかった。そういう思いで最後、お前たちに打ったんだ。試合は負けたけど接戦でいいゲームだった。全部、お前たちのモノは出せたと思う。夏2試合しか戦うことができず、途中で終わっちゃったけど、お前たちのやってきたことは間違いじゃない。これもお前たちの人生だ。お前たちはもう少しで卒業して、それぞれ別れて、それぞれの道を進むわけだけど、今年の夏に経験した以上のこともたくさん、お前たちの目の前に訪れるだろうし、どんなことが起きてもな、お前たちの人生だし、自分たちで切り開いていく。そこが大事だと思う。どんな場面でもくじけずに負けずに、しっかりとそのことに向き合って、どんな高い壁も乗り越えてほしい。乗り越えるだけの力は、いままでいろんなところで、つけたと思う。お前たちの27人が、ここで出会って、やってきたことは間違いじゃない。お前たちの周りを支えてくれた人もたくさんいる。そういった人たちに感謝する、そういう1日になったと思う」

同校は7月20日の日中、野球部員を含む複数の生徒のコロナウイルス感染が判明。その日のうちに、学校は県高野連に報告していた。今夏の石川大会は鶴来、羽咋に勝ち、8強に進出していた。同22日に遊学館と準々決勝を戦う予定だったが、感染者が複数だったため他の選択肢はなく、涙の辞退になった。林監督も本年度限りでの退任が決まっている。

星稜は春夏通算34度の甲子園出場を誇る名門校だ。今春県大会も4強入りしていた。松井秀喜、小松辰雄…。球史に残るスターを輩出した強豪が、3年生のために粋な試合を企画。1、2年生の新チームは秋季石川大会を優勝し、北信越大会も決勝までコマを進め、来年3月のセンバツ出場が有力視される。後輩が真剣勝負で挑みかかるなか、先輩の意地が光った。人生の新たな船出になる一戦だった。