<全国高校野球選手権:中京大中京5-4関西学院>◇17日◇2回戦

 関西学院(兵庫)の70年ぶりの夏が、終わった。V候補・中京大中京(愛知)との「名門対決」で、ベンチ入り18人中17人が出場する総力戦を展開。4-4の9回裏、この日2度目のリリーフに立った山崎裕貴捕手(3年)が河合完治内野手(3年)に大会史上17本目のサヨナラ弾を浴びて、敗れた。

 悲鳴に包まれた打球が、左翼席に消えた。内野で窪主将と山崎順が、左翼で高橋が、そしてマウンドで山崎裕がへたり込んだ。「古豪対決」にふさわしい2時間18分大熱戦。広岡正信監督(55)は「中京さんとは体格も打球も守備位置も違う。負けて言うのもなんですが…100点です」と教え子に目を細めた。

 165センチの「正捕手兼リリーバー」が、V候補の名門を追い詰めた。先発新川が13球で2失点。山崎裕は1回1死からマスクを脱いで、マウンドに走った。投手歴3カ月の「背番号2」が、独学のスライダーで強力打線をかわす。「投手をして、初めて低めに投げる難しさがわかった。リズムよく投げるのを意識しました」。7回まで2点しか許さず8回に再び捕手へ。同点にした9回裏は2度目の登板だった。計109球目。低めを狙ったスライダーが高めに浮いた。「抜けてしまった。自分のミスです…」と唇をかんだ。

 死力を尽くした。窪主将は「最後は山崎も足がフラフラだった。全員で戦えたし、誰のせいでもない負けです」という。ベンチ入り18人中17人が出場。4番高馬は試合後、熱中症で救護室に運ばれた。7回から両足太ももに違和感を感じていた主砲は9回、1死二塁から右前打。痛む足を引きずり、同点劇を演出した。

 広岡監督は「逃げずに、心技体の最善は尽くした」と話した。戦前に「客観的に見たら0-7で負ける」と言いいながらも、真っ向勝負の大切さを伝えていた。「日露戦争でバルチック艦隊に立ち向かった日本軍」や、映画「武士の一分」の話でナインを鼓舞した。

 1928年選抜以来81年ぶり、夏は20年以来89年ぶりの「甲子園2勝」こそ逃したが、一時部員13人まで減った名門は確かに復活した。9回に同点左犠飛を放った2年の黒木は言う。「スターはいないけど、先輩方の全員野球を受け継いでいきたい」。歴史の扉を開いた夏。涙は、誇らしげだった。【近間康隆】