<高校野球春季静岡大会:浜松学院11-0吉原工>◇28日◇1回戦◇島田球場

 浜松学院の右腕・木下球(きゅう=3年)が7回コールド参考ながら吉原工をノーヒットノーランに封じ、11-0で初戦を突破した。怪腕の呼び声は高かったものの、昨秋の県大会出場を逃すなど表舞台と無縁だったが、初夏の日差しではじけるように、10三振を奪う快投だった。ノーシードから登場の静清、常葉学園菊川は接戦をものにして底力を発揮。今日29日は夏のシード権をかけて8試合が行われる。

 9点差をつけ、浜松学院に楽勝ムードが漂う6回裏に無死二、三塁のピンチを迎えた。木下にエンジンがかかる。「どんな形でも点を与えたくないんですよ」と、どん詰まりの三ゴロで1死にすると、続く1、2番を三振に仕留めた。すべて空振りで奪った三振は10個に達した。最速142キロの直球、スライダー、フォーク、チェンジアップとも要所ではバットに当てさせない。外野飛球は2本、併殺を含む内野ゴロ8本は当たってもバットを押し込んだ結果だった。

 182センチ、92キロの堂々とした体格で、東京・東練馬リトルシニアから進学当時から期待された。だが、右肩を痛めるなどコンディションが整わない。エースの座に就いた昨年秋も県大会を逃した。支えられたのは父で双子タレントのポップコーン正一(52)だった。「故障後に必ず伸びる。お前なら150キロが投げられる」。浪商(大阪)で甲子園を経験し、芸能界屈指の野球実力者の言葉を信じ、一時は60キロ台まで落ちた体重を戻すと、たちまち球速がアップした。

 横手にも見えるフォームは、しなやかさに欠け、体の開きも早い。流麗なフォームがもてはやされる時代、すべてが理想に反する。誰もが直したくなる「アーム式」から不思議なタイミングで多彩な球種を操るのが、今は長所なのかもしれないのは本人も自覚している。「自分でも直したいところはあるんです。でも、今は…夏には150キロを出します。そして甲子園に出ます」と言い切った。

 スタンドでは25歳の双子の兄、翔人さんと遊人さんが父に届ける映像を撮りながら声援を送った。母奈緒美さん(53)は「私は野球がよく分からないんですけど、お父さんが好きなもので」と命名した球の快投を見守った。

 エースが本領を発揮すれば、打線は小暮普太外野手(3年)の4安打など、13安打9盗塁で11点を奪った。今日29日、静岡商と対する。「絶対に勝ちたい」。熱くなればはじける。気温上昇のマウンドでポップコーンのDNAが、昨年興誠から校名変更した浜松学院の歴史をつくる。【久我悟】

 ◆木下球(きのした・きゅう)1994年(平6)4月22日、東京都板橋区生まれ。小学4年で野球を始め、東練馬リトルシニア時代に全国大会出場。182センチ、92キロ。右投げ右打ち。家族は両親と兄3人、祖母。血液型A。