<センバツ高校野球:仙台育英4-1早実>◇29日◇3回戦

 仙台育英(宮城)の“持ってる男”ドラフト上位候補の上林誠知外野手(3年)が、チームを救う決勝打で12年ぶりの8強に導いた。同点とした直後の8回、勝ち越しの2点中前適時打を放ち、早実(東京)を破った。

 役者が違う。追いついた直後の8回2死二、三塁。2打数無安打の4番上林が打席に入った。ファウルで粘った後の5球目。甘く入った高めの直球をはじき返す。打球はライナーで投手が出したグラブをすり抜け、決勝の2点適時打となった。憧れのイチローが、09年のWBC決勝の韓国戦で放った決勝打をほうふつとさせる一打。2回戦でのワンバウンド打ちに続く“イチ流”に「やっぱりなんだかんだ持ってるなという感じ。イチローさんに似ている打席が多いので、イチローさんみたいにやっていきたい」と笑みがこぼれた。

 「足も速いし、イチローみたいになってほしい」。小3の時、父光行さん(48)の勧めで右打ちから左打ちに転向した。以来、スカウトの注目を浴びるまでに成長し、イチローのように“持っている男”として節目で活躍してきた。中3時に浦和シニアの全国大会で優勝した時は、中堅でウイニングボールをつかんだ。昨秋も、不思議と次々と巡ってくる好機で打ってヒーローになった。

 「全然タイミングが合ってなかった。同点じゃなかったら力んで合ってなかったかも。そこで回ってくるのは何か持ってるのかな」と佐々木順一朗監督(53)。1死満塁だった3番長谷川の打席で暴投が出て同点になり、おいしいところを持っていった。

 一見クールだが、過去2大会のWBCで侍ジャパンを引っ張ったイチローのように内面は熱い。光行さんの誕生日の2月18日、1通のメールを送った。「今まで苦労してきた分、いいことあるよ。それはオレがつくる」。そして、この試合から応援に駆けつけた光行さんに結果で示した。

 相手のマークは厳しくなってくるが「今までの強打者もその中で結果を出している。負けないで頑張りたい」。東北勢の悲願「大旗白河越え」まであと3勝。やってくれそうな雰囲気は、十分にある。【今井恵太】

 ◆勝負強い上林

 昨年10月7日に行われた秋季東北地区大会準々決勝の青森山田戦で、2-2で迎えた9回表に決勝打となる右翼への勝ち越し2点本塁打を放った。11月13日の明治神宮大会準決勝の北照戦では、3-1で迎えた7回表2死満塁で、左腕大串から右翼ポール際に満塁弾を運んだ。翌14日の関西(岡山)との決勝では、2点を追う3回裏無死満塁で中前に同点の2点適時打。1イニング9点となる猛攻の口火を切り、12-4での快勝に大きく貢献した。

 ◆上林誠知(うえばやし・せいじ)1995年(平7)8月1日、さいたま市生まれ。小1の時、西堀A-Iで野球を始める。中学時代は浦和シニアに所属し、3年春に全国制覇。岩手・宮古市出身の父光行さんの願いもあって仙台育英へ。佐々木監督が「(過去に)記憶にない」という1年秋から4番で起用される。50メートル走は6秒0。高校通算本塁打は13本。練習用ユニホームの背番号は51。家族は両親、兄、弟。184センチ、77キロ。