<センバツ高校野球:北照2-0秋田商>◇28日◇1回戦

 エースを先発回避させる「秘策」も実らなかった。4年ぶり6度目出場の秋田商が、北照(北海道)に0-2で敗戦。39年ぶりのセンバツ初戦敗退となった。大方の予想を覆し、左腕・須田貴司(3年)が先発。1回に1本塁打を含む4安打2失点と、出はなをくじかれた。打線も5安打に抑えられ、9回無死二、三塁のチャンスも逸機。これで東北勢全3校が初戦で姿を消した。

 その瞬間、頭が真っ白になった。大歓声も聞こえない。初回、先頭打者への初球。「打たれないと思った」という外角低めのスライダーを右前に痛打される。「何も考えられなくなった」。大舞台で先発を任された須田が、冷静さを失った。何とか2死三塁までこぎつけたが、門間翔也捕手(3年)の捕逸で先制される。続く4番又野知弥投手(3年)には須田自身、公式戦初となる本塁打を左越えに浴びた。

 悪夢の13球。浮足立ったムードに秋田商ベンチが即座に対応する。太田直監督(30)は迷わず伝令を送った。「この回は何点取られても構わない」。その言葉に救われた須田が、その後に招いた2死満塁のピンチを何とか踏ん張った。

 「硬いよ。いつもと違う」。ベンチに戻った須田は、昨秋東北大会で2完封含む3完投のエース片岡元気(3年)に声を掛けられた。「大阪入り後の練習試合で安定していた」と太田監督が試合3日前に決めた先発構想。前日も片岡から「おれが後ろにいる」と勇気づけられたことを思い出し、2回から7回までを1安打投球。初回とは、まさに別人だった。

 調子を上げる須田とは対照的に、打撃陣は沈黙した。4番鎌田貴大(3年)は、得点圏に走者を置いた状況で2度凡退。クリーンアップが1安打に封じられた。昨秋東北大会では4戦中3戦が「1―0」で、神宮大会は無得点。その反省から、冬場は1日1000スイングを課し打力を上げたつもりだったが、太田監督は「僕の考えが甘かった。夏までに、さらに振らせます」と誓った。

 太田監督は野球以外の指導でも選手を育てた。国語教師として「平家物語」の話題を交えながら生徒に話しかけたりもした。「情報化社会に生きる人間として」と題したミーティングを開き、教養を植え付けたこともあった。肉体面だけでなく精神面でも、ひと回り大きくなったナイン。昨年11月の神宮大会(対高岡商、0―7)からは確実に成長した。

 須田には大きな目標ができた。同校OBのヤクルト石川と同じ小・中学校を歩んだ。その石川が、00年シドニー五輪で活躍する姿を見て野球を始めた。その、あこがれの先輩も立った聖地のマウンド。石川と自分の姿を「重ねました」と振り返る。続けて強い口調で言った。「夏の秋田勢は(97年秋田商の)石川さん以来、勝っていない。夏、必ず戻ってきて勝ちたい」。試合後も収まらない悔しい表情が、夏への可能性を感じさせた。【三須一紀】