マリナーズ・イチロー外野手(36)が10日、神戸での自主トレを6日ぶりに再開した。スカイマークスタジアムでフリー打撃などで約1時間半、汗を流した。古巣オリックスの小瀬浩之さん(享年24)が転落死してから5日。目をかけていた後輩の訃報(ふほう)に接したイチローだが、悲しみは胸にしまい込んだ。フリー打撃で115スイング中、5連発を含む39本塁打。打球は9割近くが安打性。その圧倒的な光景は、天才打者の「痛み」を感じさせないものだった。

 同球場は1年前の昨年1月、小瀬さんと初めて自主トレをともにした場所。イチローは当時、小瀬さんの打撃を初めて見て「天才肌やろね。人が持ってない動きを持ってる。見てて楽しい」と才能を認めた。また、「すっとぼけた感じがいい。愛すべきキャラ。僕は好きなタイプ」と人間性にも好感を隠さず「オゼじゃなくてホゼがいい」と愛称まで命名した。

 小瀬さんは野球少年のようにはしゃいでいた。アマ時代から「目標はイチローさん」と言い続け、そのプレースタイルから周囲にイチロー2世と期待されていた。初対面後に「緊張してみぞおちが痛い」と言うほどのあこがれだった。

 今年はレギュラー候補筆頭と言われ、飛躍が期待されていた「2世」の姿をイチローは楽しみにしていたはず。しかし、それも不可能になった。この日は遺族らへの配慮からコメントは出さず、沈黙を守った。

 ただ、近い関係者によると小瀬さんの訃報に接して、強い哀悼の気持ちを示していたという。喪失感は大きい。悲劇の現実とたたかうオリックスナインと同じようにイチローもまた、苦しみを乗り越え、前進を続けることを胸に誓っているに違いない。