この歩み、まるで亀どころかロケット砲だ。阪神ドラフト3位江越大賀外野手(21=駒大)が新球場の四国Cスタ丸亀で1号となるアーチを放った。日刊スポーツ新聞社主催のソフトバンク戦。昨年日本シリーズで好投を許した左腕大隣をたたきバックスクリーン左に2ラン! 四国遠征中に和田監督、掛布DCから緊急指導を受けたプチスランプから大脱出。さぬきうどんばりの腰の強さで、開幕1軍どーんと来い!

 江越の魅力がつまった1発だった。2回無死一塁で対したのは、昨年日本シリーズで猛虎を封じた左腕大隣だった。1ボールから直球を狙いにいったが、スライダーが内角に低く沈んできた。ここから全身バネのような体が反応し、曲がり落ちる白球をとらえた。

 打球は雨を切り裂いて伸びた。両軍、ファンをあぜんとさせる飛距離でバックスクリーン左へ飛び込む2ラン。記念すべき「プロ1号」はオープニングゲームの四国Cスタ丸亀にとっても初本塁打。賞品の「うどん50人前」をゲットするとともに開幕1軍を目の前に引き寄せた。

 江越 直球を狙いにいきましたが体が反応して打てた。教わったことを意識してできた。下半身を使えていないとあのコースは入らない。自信にして継続していきたい。

 キャンプから快調に飛ばしてきたドラフト3位新人が「トンネル」に迷い込んでいた。2月28日オリックス戦で4タコ。和田監督はミートポイントが近くなってヘッドが下がり、右方向にしか打球が飛ばない状態を見抜いた。試合がなかったこの2日間、付きっきりで指導した。

 和田監督 俺が言ったことは1つなんだよ。

 明確には明かさなかったが、左膝が早く伸び上がってしまう江越に、下半身を粘るようアドバイスしていた。指揮官はすぐに結果は出ないかもしれないと覚悟していたが、なんと「1発回答」を示して見せた。

 和田監督 ここ何日か、あそこの球は空振りか打ってもゴロになっていた。すくい上げて、上に上げられる下半身ができていた。

 江越 調子が悪かったら反応できない。昨日まで言われていたことを意識してやるだけ。ポイントが近くなって差し込まれていた。今日は前で打つことができました。

 4回には無死一、三塁で、武田の変化球に食らいついた。追い込まれながらも右翼への犠飛で仕事を果たした。

 和田監督 武田の球についていって犠牲フライか。やっと下(下半身)が使え出したかな。

 左翼と右翼に就いた守備でも左前ゴロを狙った三塁悪送球や、背走してフェンス際で倒れ込みながらのキャッチなど何かと目立った。何よりスランプ脱出の2ランに3打点で昨年日本シリーズの再戦を制した。虎党が今季に夢を膨らませる幸せな勝利の裏に、指揮官と江越の“師弟物語”があった。【鈴木忠平】

 ▼阪神新人選手のオープン戦本塁打は04年鳥谷が3月6日オリックス戦(ヤフーBB)の3回、ムーアから右中間スタンドに放って以来、11年ぶり。今季は広島野間が2月21日巨人戦(沖縄セルラー那覇)でルーキー1号を放っている。