あと数十センチでスタンドインだった。3回、同点に追いつくゴメスの2点二塁打に続き、5番で打席に立ったのは阪神福留孝介外野手(37)だった。2ボールから外角シュートを振り抜くと、打球は中堅フェンス最上部を直撃した。勝ち越しのタイムリーに虎党が沸き上がった。

 「初回のチャンスで打てなかったから、何とかしたいと思っていた」

 指揮官の決断に1つの答えを出した。自己ワースト20打席無安打のマートンを6番に下げ、福留に5番を任せた。初回2死一、三塁では遊ゴロ。4点を追った8回の無死一、二塁では遊ゴロ併殺を食らった。新5番打者に託されるチャンス3度で、1度しか打てなかった。納得できるはずもない。だが、自分を追い込むこともしない。それが重圧に打ち勝ってきた男の考え方だ。

 「変な打撃をしてアウトになっているわけではない。打てる時もあるし、打てない時もある。もちろん、毎回、打てたらいいんだけど、変に悩まないようにしたい。5番を打つのは最初のイニングだけだから」

 マートンとは米国時代からの付き合いだ。「うちのチームで一番、真面目な選手だと思う」。日々、野球に向き合う姿勢を尊敬しているからこそ、不振を極める今の心中を察している。後ろを打つことになった男の復調を願いながら、勝利のために打席に立つ。

 和田監督 孝介も状態がいいんで。(マートンは)つなげてもらわないとね。なかなか兆しが見えなくて、こういう打順になっているわけだから。

 指揮官は状態を見ながらオーダーを考えていく方針のようだ。逆転しても、もう1点、もう1点と追加していけないのが現状。停滞感を打破するのが福留に課せられた役割だ。【鈴木忠平】

 ▼福留の先発5番は今季初で、14年8月10日広島戦以来。13年には35試合あり、阪神移籍後計37試合で136打数26安打、4本塁打、25打点、打率1割9分1厘。中日在籍時には通算145試合でスタメン5番を務め、打率3割2分1厘の好成績を残している。