稀代の劇弾男、阪神福留孝介外野手(38)が延長11回の熱戦にサヨナラ2ランでケリをつけた。先発藤浪晋太郎投手(21)が10回無失点と力投した投手戦。延長11回2死一塁でバックスクリーン左にサヨナラ2ランを放ち、チームの白星で藤浪に報いた。阪神移籍後、3年連続のサヨナラアーチ。「日本生命セ・パ交流戦」にパパッと連勝スタートの阪神は球団創設以来、通算4999勝と大台に王手だ。

 センターへ伸びる打球を福留は祈るように見つめていた。延長11回2死一塁、楽天戸村の直球をたたきつぶした。入ってくれ-。ベンチの、虎党の、そして藤浪の願いも乗せた白球は、中堅手の頭上を越えるとフェンスぎりぎりで向こう側へと消えた。

 「ああだこうだ考えずにシンプルにきた球を打つだけ。どういう投手かわからないし、センターへ打とうと。この球場で反対方向に放り込むのは難しいけど、最後は風が助けてくれた部分はあったかな」

 劇的なサヨナラ2ランで決着をつけた福留は、仲間たちから氷水シャワーの祝福を受けた後、藤浪のもとへと歩み寄った。

 「ずっとゼロで頑張っていたんで、そこはすまなかったな、と」

 延長10回を無失点で投げ抜いた21歳へ、ヒーローからの“謝罪”だった。藤浪快投の裏で、打線は10回まで援護できず…。自身も4回には無死二塁の得点圏で打てなかった。勝ち投手にしてやれなかったことが申し訳なかった。

 底知れない実力を肌で感じるからこそ、時には厳しい言葉もかける。藤浪が今季初登板した3月29日、初回に3失点した後、京セラドーム大阪のベンチに福留の怒号が響いたという。

 「晋太郎! ウメ! 逃げるな!」

 失点したことではない。若いバッテリーが外角一辺倒の投球で打たれたことが歯がゆかった。くしくも阪神へ移籍した年に藤浪が入団してきた。その背中を右翼からずっと見続けている。打者へ、勝負へ、野球へ向かっていく姿勢。見ているのは常にその1点だ。だからこそ、ここ数試合の変化も感じ取っていた。

 「いろいろなことを考えて少しずつ修正して。そういうところを僕らも見てきているから」

 勝利に値する、いや、勝たせなければいけない投球だった。福留はそう思ったからこそ歓喜の後、真っ先に藤浪へ“謝罪”に向かったのだろう。苦手だった交流戦で9年ぶりの連勝スタート。投打の関係が揺るぎかけていた猛虎に、再び信頼関係が生まれようとしている。そんな勝利だった。【鈴木忠平】

 ▼福留が延長11回にサヨナラ本塁打。福留のサヨナラ本塁打は中日時代の03年4月2日ヤクルト戦、阪神での13年4月19日ヤクルト戦、14年7月22日巨人戦に次いで4本目となり、全部延長戦で打っている。連続シーズンサヨナラ本塁打は88~91年落合(中日)ら5人の4年だが、阪神で3年連続は74~76年田淵に次いで2人目の球団タイ記録。3年連続の延長サヨナラ弾は、62~65年毒島(東映)88~90年山崎(広島)91~94年広沢(ヤクルト)に次いで史上4人目だ。

 ▼阪神のサヨナラ勝ちは今季4度目。サヨナラ本塁打は今季初で、14年7月22日巨人戦(甲子園)での福留以来。福留は中日時代の全192本塁打中、サヨナラアーチは1本。13年の阪神加入後は21本塁打中、3本目のサヨナラ本塁打。

 ▼阪神が球団創立以来、4999勝目を挙げた。1936年(昭11)4月29日、公式戦初戦を甲子園で金鯱と戦い、3-0と白星発進。創設80年目に大台を目前にとらえた。ここまで通算9974試合。プロ野球史上初となる5000勝球団は巨人で、通算8777試合目の07年5月2日中日戦(ナゴヤドーム)で到達している。