西武秋山翔吾外野手(27)が若きイチローの残像を超えようとしている。日本ハム戦で7号ソロを含むサイクルヒットまであと単打1本の3安打固め打ち。6月に入り8度目の猛打賞で96年イチロー(当時オリックス)ら史上最多タイ記録に並んだ。シーズン238本ペースのみならず、130試合制で210安打を放った94年イチローのペースをしのぐ。独走のバットマンに導かれ、チームも5月20日以来の2位に浮上。この日はマツダオールスターゲーム2015(7月17~18日)のファン投票最終結果が発表され、秋山は初めて選出された。

 秋山は最後にヒットを打つことの奥深さを知った。サイクルヒットに王手をかけて単打あと1本。だが一ゴロ、そして8回の最終打席は二ゴロで終わった。ベンチで仲間に「勝負弱ぇな~」「あれだけヒット打って、何でここで1本が出ない!」と、はやし立てられながら守備位置へ。笑うしかなかった。

 初回に最も出にくい三塁打が出た。3回に本塁打が出た直後に田辺監督から「最後まで行っちゃえ」と声をかけられた。「次の1本が出ないことには自分でも意識しないけど」二塁打が4打席目に出た。野球人生で未体験の快挙のチャンスが目の前にぶら下がった。「最後の2打席は頭が真っ白になった。力みを隠せなかった」と違和感を覚えた。

 今季、いずれは体感するであろう快挙への重圧。「力みは大敵。200安打の寸前はこういう感じなんですかね。これからヒットを打つ上でいい経験になった」とプラスに捉えた。

 誰も届かないと思っていたイチローの幻影。シーズン最多安打214本は阪神マートンが持つが、144試合制だ。イチローの130試合制での210本は究極の安打量産ペースだ。だが秋山は70戦目となった前日25日のソフトバンク戦で115本目。94年の70試合時点でのイチローの114本を超えた。39戦目での秋山はイチロー以上に打っており、希代の天才を“31試合ぶり”にしのいだ。

 どれだけ打っても威勢のいい言葉は聞かれない。この日発表の球宴ファン投票で初選出。「選ばれた顔ぶれの中でも地味だと思う。うちの大阪桐蔭の3人はフルスイングとか遠くに飛ばす魅力がある。自分はコツコツやります。客観的に見ても目玉の1人ではない」。左中間最深部に運んだ7号ソロも同じだ。「自分でもビックリ。距離が出ない方向にあれだけ飛んだ。でも本来の打撃じゃない。修正しないと」と元の立ち位置に戻ろうとする。

 だが数字には正面から向き合う。首位打者を争うソフトバンク柳田の打率は試合のたびに確認する。「意識して打撃が崩れるようじゃダメ。柳田の打率はチェックするし、向こうもそうだと思う。力に変えていきたい」と好敵手の存在を肌で感じる。

 猛打賞は6月に入り8度目。交流戦後のオフもあり、試合数が少ないにもかかわらずイチローらが残したプロ野球最多タイ記録に並んだ。今月は残り3戦で新記録更新も十分にある。「初心に帰って、明日からの試合が大事になる」。ヒットにまつわる記録を総ざらい塗り替える可能性がある。誰も見たことがない高みに、挑む。【広重竜太郎】

 ▼秋山が3安打を放ち、今月8度目の猛打賞。2リーグ制後、月間8度の猛打賞は05年4月のアレックス(中日)と赤星(阪神)以来10人目の最多タイ記録となった。秋山は6月19試合目で、20試合未満で8度は80年8月島田誠(日本ハム)05年4月アレックスに次いで3人目だ。これで今季の猛打賞は早くも18度目。猛打賞のシーズン最多記録は10年西岡(ロッテ)の27度だが、6月終了時に西岡は13度。西岡を上回るペースで猛打賞をマークしている。今月の西武は、残り3試合。秋山には猛打賞の月間新記録のほかに、94年5、6月イチロー(オリックス)以来の2カ月連続月間40安打も、狙ってもらいたい。