お前を勝たせる-。阪神福留孝介外野手(38)の打球にはそんなメッセージが込められているようだった。1点リードの6回2死一、二塁。3ボール1ストライクからDeNA小杉の速球を狙い澄ました。バックスクリーンへ一直線にぶち当たる、14号3ランだ。

 「有利なカウントだったから。初先発だったし、勝たせてあげたかった」

 プロ初先発だった2年目山本の背中を押すように、4回にも追加点となる13号ソロを右翼スタンドに運んでいた。今季2度目の1試合2本塁打。中日時代の07年以来で、まさにスラッガーとして完全復活と言っていいだろう。ただ、1つだけ昔と違うことがある。中日時代はその要求の厳しさに周囲がついてこられない場面も多々あり、孤高の男になった。だが今は違う。「あいつ、緊張しすぎ! そわそわ、そわそわして。もう少し落ち着けばいいのに。高校野球じゃないんだからさ(笑い)」。右翼の守備位置から見た左腕について、試合後はうれしそうに言った。

 8回には右中間を破りそうなバルディリスの打球を好捕してピンチを救った。山本の初勝利を最も援護したと言っていい福留は「あいつの人柄だろ」と、理由を短い言葉に込めた。今の福留の周りには仲間がいて、後輩がいる。

 硬くなっている者がいれば、肩をほぐしてやる。臆している者がいれば、背中を押してやる。年齢を重ねることで福留が手にした包容力だ。孤高の男から兄貴分へ-。この日は最高に頼りがいがあった。【鈴木忠平】