宣言通り無敗での下克上封印だ。ソフトバンクが「2015 SMBC日興証券 クライマックスシリーズ パ」(CS)ファイナルステージ第3戦でもロッテを退け、4勝(アドバンテージ1勝含む)0敗での日本シリーズ進出を決めた。1敗も喫しない意気込みを示していた工藤公康監督(52)は、9度舞った。2年連続日本一をかけて24日から日本シリーズに臨む。

 最強の戦士たちに支えられ、指揮官は高く舞った。リーグ優勝と同じ9度の胴上げ。「前回よりも僕が重たくなっているせいか…。すみません。これからダイエットに努めたい。ドームの天井が近く感じるぐらい思い切り上げてもらった」。その後に意外な行動を取った。孫オーナー、主将に指名した内川の胴上げに自らも加わった。

 「孫オーナーには高く舞ってほしかった。内川にはキャプテンとして、僕がいろんなものを背負わせた。少しでも僕が受け止めてあげたいと思った」

 新人類と言われた現役時代は胴上げの周りではしゃいでいた。手に伝わる重み。初の感触だ。周囲への感謝の気持ちをこめた。

 リーグ戦の残り10試合は2勝8敗に終わった。柳田の負傷など、チームは負の流れに陥った。グラウンド外でも、初めて味わうつらい経験があった。球団から戦力外選手の最終リストの報告を受けた。「1日も長くプレーしてほしい」。そう願ってきた指揮官は、チームのトップとして思い悩んだという。本来の明るさに、陰りが生じた。

 「お日様に当たりに行くぞ!」。海に出た。休養日の7日。家族内ではやっている釣りをするためだ。ダイエー時代に息抜きをした福岡の海に、釣り糸を垂らした。3秒でアジがエサに食いついたという。大漁だった。シーズン開幕からたった3日のオフも野球の研究を欠かさなかった男が、時を忘れて、楽しんだ。日光を浴び、英気を養う。そして、勝負師の顔を取り戻した。

 CS直前には、円陣で強気のメッセージを発信した。「1つも負ける気はない」。下克上で勢いに乗るロッテに対し、それ以上に「気」を高めた。

 「1つ負ければ、相手が勢いに乗る。絶対に負けるわけにはいかない思いで、みんなで立ち向かわないと。その意思を示すのが、大事だと思った」

 14度出場した日本シリーズで流れの重要性は痛いほど知っている。ましてCSは休養日がなく、流れが切れない。その言葉にナインも反応した。指揮官は試合開始直前の光景に胸が熱くなった。

 「守りに就く選手に、控えの選手が立って、拍手で送り出した。温かみ…。この試合にかける思いを感じた」

 スローガンの熱男だけではない。他者を思いやる温かい気持ち。チームの団結が生んだ3連勝だった。

 リーグ最速優勝に続き、最短のCS突破。圧倒的な強さを全国に示した。次は頂点を決める戦いだ。「手応えは100%に近い。絶対に勝つ気持ちで迎えたい」。90~92年に3連覇を果たした西武以来となる連続日本一への挑戦。新人監督が慣れ親しんだ大舞台に帰ってくる。【田口真一郎】

 ▼ソフトバンクが4勝0敗で2年連続16度目の日本シリーズ出場を決めた。3戦先勝時代に5チームが3勝0敗でシリーズに進出しているが、4戦先勝になった08年以降に4勝0敗は11年ソフトバンク、12年日本ハム、13年巨人に次いで4チーム目になる。工藤監督は就任1年目。新人監督のシリーズ出場は12年栗山監督(日本ハム)以来16人目。無傷でプレーオフ、CSを突破した新人監督は12年栗山監督に次いで2人目だ。工藤監督は現役1年目の82年にシリーズへ出場して日本一、監督でも1年目に優勝できるか。