故沢村栄治氏を記念し、シーズンで最も優れた先発完投型の投手に贈られる「沢村賞」の選考委員会(堀内恒夫委員長)が26日、東京都内で開かれ、セ・リーグ最多勝の広島前田健太投手(27)が選ばれた。阪神藤浪、日本ハム大谷とともに最終候補に残り、安定感が評価された。5年ぶり2度目の受賞に「1回目よりうれしい」と感激。セ・リーグからの選出も5年ぶりとなった。

 また1つ、勲章を手にした。前田は誇らしげだった。シーズン前に宣言していた沢村賞を狙い取り。シーズン終了後に遅れて届いた、最高のご褒美だった。

 「もう1度、沢村賞という賞を取りたいと思っていたし、目標にしていた。2回目は取るのが難しいという話は聞いていたので、取れてうれしい。今回はしっかり目標にしていたし、ここ数年取りたいと思って、なかなか取れなかったので、1回目よりうれしさは大きい」

 上位争いをするチームをけん引した。5月までに巨人と4度対戦。2勝2敗も、同カードの7年ぶり勝ち越しに貢献した。8月以降は、上位を争う阪神に4連勝し、最後までAクラス入りに望みをつなげた。満身創痍(そうい)となりながら中4日でも投げた。7日、中日との今季最終戦は今季2度目の中4日登板で、7回125球を投げ、無失点に抑えた。

 15勝で最多勝を獲得し、投手部門でいずれもリーグ上位につけた。投球回はリーグ2位の206回1/3。3年ぶりに大台を突破した。「チームに一番直結するのは勝利数と防御率だと思う。もう1度、200イニングは超えたいと思っていた。そこを達成できたので、この賞につながったのかなと思う」。今回、同賞を争った阪神藤浪は199回、日本ハム大谷は160回2/3だった。

 7項目中6項目をクリア。10年以来2度目の受賞となった。複数回受賞は、広島では北別府学氏(82、86年)以来。ただ、満足感だけではない。「個人としては最高の気分なんですけど、チームとしては4位に終わった悔しさが残ってしまう。その悔しさはどこかにあります」。3年ぶりBクラスに心残りもある。

 長いシーズンが終わっても「プレミア12」へ向け、秋季練習に初日から参加している。明日28日にはシート打撃に登板する見込み。まずは世界の舞台に照準を合わせ、日本最高投手としての力を示す。【前原淳】

 ◆沢村賞 不世出の大投手といわれる故沢村栄治氏(巨人)の功績をたたえ、1947年(昭22)に制定された。沢村賞受賞者、または同等の成績を挙げた投手で、現役を退いた5人を中心とする選考委員会で決定する。当初はセ・リーグ投手を対象にしたが、89年から両リーグに対象が広げられた。受賞者には金杯と副賞300万円が贈られる。

 ◆選考委員(敬称略)堀内恒夫、平松政次、北別府学、山田久志、村田兆治(欠席)

<選考過程>

 選考委員による熟考の末、最終的には満場一致で広島前田が選出された。阪神藤浪、日本ハム大谷と3人に絞って選考された。選考基準になる(1)15以上の勝利数(2)150以上の奪三振数(3)10以上の完投試合数(4)2・50以下の防御率(5)200イニング以上の投球回数(6)25以上の登板数(7)6割以上の勝率のうち、前田は完投(5)以外の6項目をクリアした。ただ、同賞を獲得した10年も15勝8敗とあり、堀内恒夫選考委員長は「もう少し力がある投手で、前回より上積みがあれば文句なしだった」と言う。

 藤浪は221奪三振、7完投ともセ・リーグのトップで、他の2投手よりも多く、平松政次委員は「沢村さんにイメージが近いのではないかという意見も出た」。大谷も15勝、防御率2・24、勝率7割5分と3部門でパのトップ。160キロを超える直球も魅力という意見があった。堀内委員長は「甲乙つけがたく、私は該当者なしでもと言ったが、今年のNO・1投手を選ぼうと。それならば前田となった」と説明した。