世界一奪還へ、秘策を携えて出陣する。侍ジャパン小久保裕紀監督(44)が、戦国武将・織田信長流の兵法で投手陣を操る。8日に開幕する初開催の国際大会「プレミア12」に向け、4日は福岡で練習を行い、今日5日からプエルトリコ代表と2試合の強化試合を行う。小久保監督は総勢13人の投手陣を先発4人、「第2先発」5人、救援4人と3班に編成。信長が制した長篠の戦いのごとく、「鉄砲の三段撃ち」をイメージさせるスタイルで天下取りに挑む。

 侍を率いる大将が、妙案を編み出していた。小久保監督はクレバーな投手起用を温めていた。短期決戦に向けた適性などを見極め、13人を3班に区分。最高のパフォーマンス発揮と、リスクマネジメントも併せ持つ狙いがある。合戦の天才とも呼ばれた織田信長は、長篠の戦いで「鉄砲の三段撃ち」により、当時最強の部隊と称された武田軍の騎馬隊を蹴散らした。その秘策と重なるように、13人を自在に操り、真剣勝負へ乗り出す。

 最強の駒で3連隊を組み、海外の列強相手に打ち込んでいく。先発陣は8日韓国戦(札幌ドーム)から大谷-前田-武田-菅野の順で4人に内定。さらに試合序盤での乱調、アクシデントに対応可能な強烈な二の矢も配備する。「第2先発」として、各球団の主力先発の小川と則本ら5人を配する。救援陣は抑えが本職の4人を据え、局面に応じて投入していく青写真のようだ。一戦必勝の本番への最善策になる。

 武士道へ理解が深い、小久保監督ならではの兵法だ。水滸伝などの歴史小説を読む理由についてこう言ったことがある。「歴史上の、本当に生きるか死ぬかという戦(いくさ)をしていた時の人たちが仲間に贈る言葉だったり、死とはどういうものかと語り合っている部分にひかれる」。先発に限らないフル回転を申し出た大野のように、侍の看板に恥じない兵もそろい方向性を出せた。献身さに兵法で報いる思いも、秘策を生み出す知力につながった。

 試運転を開始する。今日5日プエルトリコ戦でも前田-大谷の先発2枚でつなぎ、「第2先発」の大野と則本を挟んで、増井と松井の継投を予定。「本番は8日から。勝つためにスムーズに入れるように」。入念なシミュレーションを敢行して本大会に備える。世界一奪回へ、信長をイメージさせる兵法で、日本野球の新時代絵巻を紡ぐ。【高山通史】

 ◆長篠の戦い 1575年(天正3)に三河国・長篠城(現愛知県新城市長篠)をめぐり、織田信長、徳川家康連合軍と武田勝頼軍の間で行われた戦い。織田・徳川軍は当時最新兵器だった鉄砲を3000丁用い、最強と目されていた武田騎馬隊を撃破した。当時の鉄砲は1発撃った後、弾の補充などに時間がかかる難点があった。しかし、鉄砲隊を3分割し、交代で連続攻撃することで弱点を解消した。この作戦は「三段撃ち」と呼ばれ、戦いを制した信長は天下統一に近づいた。ただし、近年では三段撃ちや鉄砲数には真偽を疑う見方もある。