声をからせた赤い雨がっぱの後押しを受け、広島田中の打球はグングン伸びていった。肌に張り付くような小雨を切り裂き、そのまま左翼スタンド最前列に吸い込まれていった。1点リードの6回1死一、三塁。カウント2-2から6球目だった。巨人山口の直球を粉砕。試合を決める3号3ランだった。

 「打ったのはストレート。外野フライでもいいと思っていました。越えてくれてよかったですね!」

 雨雲同様、打線も停滞していた。1回に田中の左前打、二盗から2点を奪うも、2回以降は沈黙。走者を出しながらも残塁を重ねた。立ち直る巨人田口と懸命に粘る広島野村。少しのきっかけで逆転されてもおかしくない状況だったが、田中の一振りで決まった。小さく見せたガッツポーズには、野手の苦しみがこもっていた。徹底した逆方向への打撃で、ついに打破した。

 東海大相模、東海大、JR東日本とエリート街道を歩んできた男だが「僕は人に恵まれていた」という。どこを切り取っても「球拾いとか、雑草抜きとかはやったことがないんですよね」。周りを見渡しても、厳しい練習こそあれ、理不尽を受けたことはない。「高校時代には戻りたくないですけどね(笑い)」。先輩に囲まれ、野球に向き合う時間が田中を作り出した。

 この1発からビッグレッドマシンガン打線がさく裂し、この回打者10人で一挙7点。3カード連続の勝ち越しを決め、貯金は今季最多の6とした。投打がっちりの広島。2万5793人を、笑顔で帰路につかせた。【池本泰尚】