虎に明日への光を差し込むサウスポーだ。阪神岩貞祐太投手(25)が最下位危機を救い、チームの連敗を4で止める快投だ。ヤクルト戦で4安打8奪三振で今季2度目の完封勝利。7勝目を挙げ、前夜3アーチの山田も無安打に封じた。チームで最近2週間勝ったのは岩貞だけ。バットでもプロ初適時打を記録した左腕が、まさに主力投手級の存在感を漂わせ始めた。

 146キロ、147キロ…。9回になっても岩貞の球威が落ちない。「点を取られたくない気持ちが出て、ボールに伝わったかなと思う。チームが連敗していたし、打たれるときは全部の力を使い果たして、と思って1球1球全力でいった」。最後は西田を変化球で遊ゴロに仕留めて左手を握りしめた。5月27日巨人戦以来、自身2度目の完封勝ち。自己最多130球でチームに1週間ぶりの笑顔を咲かせた。

 神宮に悲鳴が上がったのは2回だった。前夜3本塁打のヤクルトの4番山田との最初の対決。1球目外角の変化球、2球目は内角直球。そして3球目。投げた瞬間に背番号1がのけ反る。144キロが背中を直撃。「当ててしまったのは申し訳ない…」(岩貞)。試合後は何度も謝罪を繰り返したが、この徹底した内角攻めが奏功。その後も強気な投球で最も怖い男を3打数無安打に封じ込めた。

 高校の先輩との「再戦」だった。ヤクルト先発は熊本・必由館の先輩山中。初めて投げ合った8月28日(甲子園)は5回3失点で敗れた。オフは地元で野球教室を行うなど連絡を取り合う間柄。だが、シーズン中は違う。山田の死球から始まった2回2死満塁のピンチで山中を空振り三振。逆に6回1死満塁のチャンスでは、ボールをたたきつけて左前適時打。プロ初打点をマークするなどバットでも先輩に完勝した。

 危機を救った。負けていれば最下位転落の正念場。前回9月4日のDeNA戦ではチームの連敗を「7」でストップ。今回も4連敗で止めた。この惨状には目を覆いたくなるが、若き左腕の力投は何とも頼もしい。3位DeNAがデーゲームで敗れたこの日、チームのヤクルト戦の連敗も「6」で止めた。かすかに残るCS進出へ望みをつなぐ価値ある勝利だ。

 金本監督も「投げる才能がついてきたのかなと感じる。10勝しててもおかしくない力がついてきたと思う」と先発ローテの軸として力が備わってきたと見始めた。昨季まで通算2勝の岩貞は自身初の規定投球回まで、あと5回2/3。今月5日に25歳になった左腕が、虎を支える新たな柱になることは間違いない。【桝井聡】

 ▼岩貞が5月27日巨人戦に次いでプロ入り2度目の完封勝利。阪神は今季、能見と藤浪が1度ずつシャットアウト勝ちしており、3人で4度となった。セ・リーグで完封勝ちが多いのは、広島の4人で5度(ジョンソン2、戸田、野村、黒田が1)、DeNAは3人で5度達成。これに阪神が続く。巨人は2人で3度、ヤクルトと中日が2人で2度となっている。