男気(おとこぎ)右腕が壮絶にマウンドを去った。今季限りでの現役引退を表明している広島黒田博樹投手(41)が先発し、5回2/3を投げて4安打1失点。最後は両脚をつって、マウンドを後にした。2二塁打されていた日本ハム大谷翔平投手(22)を左飛に仕留めたところで交代。現役ラスト登板の可能性がある一戦でも、強烈なインパクトを残した。広島は延長10回、サヨナラ負けを喫した。

 死力を尽くした黒田の背中に、万雷の拍手が注がれた。広島ファンだけでない。日本ハムファンも拍手を送った。味方はもちろん、敵のファンも、心揺さぶられる投球だったに違いない。誰もが黒田をたたえていた。

 立ち上がりから徹底的に低めに集め、制球ミスを最小限にとどめた。だが、異変は6回に起こった。マウンドで珍しく屈伸。両足ふくらはぎがつっていた。80球に近づいた球数以上に、肉体が悲鳴を上げた。先頭の近藤を三飛に打ち取り、大谷を左飛に打ち取ったところで、精神力でも支えられなくなった。表情をゆがめた黒田は、畝投手コーチらとともにベンチ裏へ。右足を引きずりマウンドに戻ったが、投球練習でハムストリングにも張りを感じたために続投を断念。「無理してチームに迷惑をかけるのも良くない」と判断した。降板後はすぐにスパイクを脱ぎ、靴下のまま右足を引きずりながら顔に手をやり、ベンチ裏に消えた。

 以前、日本球界で気になる選手に名前を挙げた大谷には、4回まで2打席連続二塁打を打たれた。「しっかり振られましたし、やっぱり投手が打席に立っている感覚では投げられない」。それでも最後の対戦となった6回は、体が痛む中、この打席で初めて投じたフォークで抑えた。意地、プライド、闘争心…。投球に黒田の思いが込められた。

 日本シリーズ前に今季限りの現役引退を表明。チームメートだけでなく、ファンにも最後の勇姿を見せたい意向があった。「カープのユニホームを着て投げる方が、最後の1球になったとしても後悔がない」。復帰を決めた広島で自身初の日本シリーズに「こういうマウンドに立てたことは、すごく幸せなこと」と言いながら「勝ちにつながらなかったのは残念」と最後までチームを思った。

 体はボロボロでも、黒田の心はまだ折れていない。病院へは行かず「次の登板の可能性があるなら備えたい。打者1人でも何でも力になれればいい」と言い切った。最後までファイティングポーズを崩さない。誰もが胸を打たれた姿が、エンディングになるとは限らない。【前原淳】