屈辱をバネに世界一まで跳ねる。小久保裕紀監督(45)率いる侍ジャパンが6日、QVCマリンフィールドで合宿を開始した。昨年11月のプレミア12準決勝では、韓国に3点リードをひっくり返されて逆転負け。中心メンバーは、あの悔しさを忘れていない。来年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向け、日本野球が過去に味わった屈辱を編集した「反骨モチベーションビデオ」を作成することが判明。痛い経験を胸に刻んで、大きなエネルギーに変える。

 NPBエンタープライズが制作する第4回WBC用モチベーションビデオは、準決勝で敗退した前回13年の同大会、3位に沈んだプレミア12、そして正式競技となって1度も金メダルを獲得していない五輪が中心となる見込みだ。屈辱的な映像を、試合直前に見せる。「悔しい思いはしたくない。絶対に勝つんだ、という気持ちを奮い立たせてほしい」(NPB関係者)という熱い思いが込められている。

 歓喜のシーンを集めて士気向上を図る手法がほとんどの中、まるっきり逆の手を打つ。プレミア12では、優勝したWBC第1回、第2回大会をメインとした約5分の映像を作った。好プレーのほか、日本代表を率いた歴代監督からのコメントで、日の丸を背負う重みを伝えた。さらにアンダー世代の代表だったオコエ、清宮らからの応援メッセージも加えた。小久保監督を筆頭に、3点リードをひっくり返された準決勝韓国戦を心に秘め、雪辱に燃える面々。今回の侍には、ポジティブ映像だけでは足りない。「最強日本を取り戻せ」という刺激的な逆療法こそ、最高の後押しになる。

 “あの敗戦”を語る選手の言葉は、自然と熱を帯びる。プレミア12の韓国戦でマスクをかぶっていた嶋は「あの時、自分はピンチになって引いてしまった。もちろん忘れていないし、非常に悔いとして残っている。教訓にして、バネにしないといけない」。主軸を担った筒香も「味わった悔しさは今でも鮮明に覚えている。絶対に忘れてはいけない。このユニホームで勝つことは野球人気、普及に直結する。日の丸を背負って戦う意味合いは深く、強いものだと思っています」と強い覚悟を示した。

 初開催の第1回を除けば、初めて称号なしで挑む第4回大会。QVCマリンに招集された男たちを見守った小久保監督は「このユニホームを着ると緊張もあると思うが、10日(メキシコ戦)には合わせてくれると思う。強化試合は、WBCにつなげるための試合」とうなずいた。挑戦者。もう王者ではない。決して拭えない屈辱をグサリと胸に刻み、侍たちが覇権奪還へのグラウンドへ飛び出す。【佐竹実】

<日本野球の屈辱>

 ▼00年シドニー五輪 準決勝でキューバに敗れた。韓国との3位決定戦では松坂(当時西武)が好投も、主砲の李承■(当時三星)に決勝適時打を浴び敗戦。五輪で初のメダルなし。

 ▼06年WBC2次リーグ韓国戦 1次リーグに続いて韓国に敗れ、イチローが「ボクの野球人生でもっとも屈辱的な日ですね」。韓国はイチロー発言の後、日本に勝利するとマウンドに国旗を立てる時期が続いた。

 ▼08年北京五輪 オールプロで必勝を期すもメダルなし。準決勝の韓国戦、同点の8回に岩瀬が李承■(当時巨人)に2ランを打たれ敗戦。3位決定戦も米国に完敗。

 ▼13年WBC準決勝 プエルトリコ戦の2点を追う8回、4番阿部の打席で仕掛けた重盗が失敗。大きくクローズアップされた。

 ▼15年プレミア12準決勝 大谷の快投で3点のリードを守る展開に。則本が2イニング目の9回につかまり、松井、増井も流れを止められず、4点を奪われ逆転負け。

 ◆モチベーションビデオ 士気を高める目的で編集された映像。サッカーでは、スペインのバルセロナ・グアルディオラ監督が、09年の欧州CL決勝前に、映画「グラディエーター」の戦闘シーンで選手を鼓舞。

 11年女子サッカーW杯で、なでしこジャパンは東日本大震災の映像を見た。佐々木監督は「本当に苦しい時は被災者の方々のことを思って頑張れ」と言った。

 昨年のラグビーW杯では、南アフリカに勝利した日本代表も採用。トップリーグの選手、OB、関係者約700人の声が収録されていた。球界では今季、広島黒田がCS前、球団幹部に作製を提案。自ら編集にも携わった。

※■は火ヘンに華