期待のルーキーは、まさに“ハヤブサ”だった。ロッテのドラフト1位桜美林大・佐々木千隼投手(22)は、昨秋ドラフトで外れ1位ながら5球団が競合した逸材だ。投手としての能力は言うまでもないが、どんな素顔をしているのか。22年間、もっとも間近で見てきた母浩子さん(54)に聞いた。【取材・構成=古川真弥】

 浩子さんは、ロッテ入団に運命を感じた。「ハヤブサ(隼)はタカやワシの仲間では一番小さいけど、大きなものに立ち向かう。あの子も、自分の地位や実力より常に上を目指して乗り越えてきた。名前と合ってたのかな。それに、パ・リーグにはタカもワシもいる。ロッテはカモメですけど(笑い)」。高校は都立で強豪私学に挑んだ。大学も伝統校ではなく、新興の桜美林大。タカ(ホークス)やワシ(イーグルス)と競うロッテは、ふさわしく思えた。

 今の自分より上を目指すのは、ひな鳥の頃から変わらない。3人兄弟の末っ子。自転車は3歳で補助輪無しで乗れた。「兄2人が出来ることを出来ないわけがない」と転んでも乗り続けた。やりたいことに集中する子だった。幼稚園で泥団子を作ると「完璧な球体にしてました」。泥を丸め、砂を何度も重ねる。単調な作業も、とことんやった。

 環境がハヤブサを生んだ。兄たちだけでなく、家の周りには年上の男の子が多かった。一緒に遊んだことが、運動神経の発達に役立ったかも知れない。「末っ子で、周りに助けてもらいやすい。良い環境に入れる天性。指導者の方にも、チームメートにも恵まれました」。ただし、あぐらはかかなかった。「線が1本通っている。流されないです」。高校も、大学も、引退後は時間がある。遊びたい年頃だが「息子には次の段階に行くことが大事。遊びを断ったり、顔は出しても2次会は行かなかったり。羽目は外さないですね」。

 野球に一直線だが、母鳥には「支度ができない普通の男の子」と映る。根が素直だ。弁当箱は自分で洗うのが佐々木家の決まり。洗わないと、翌日は作ってもらえない。洗い忘れた朝、千隼は文句を言わず洗う。母との会話も多い。「女の子の話も隠さないです」。

 羽ばたくわが子に、浩子さんは教訓を送った。「これからは人に見られる仕事。身なりや言葉遣いを意識して」。そう言ってペンを取った。千隼宛てに初めて年賀状を、したためた。

 「千隼の名前に恥じぬよう、何事にもひるまず立ち向かっていって下さい」

 ◆千隼の由来 兄2人は「也(や)」で終わる。両親は3人目もそうしたかったが、既に周りに「也」で終わる男の子が多く断念。そこで、音だけは「や」にしようと「隼」に。隼の字画が多い分、上の漢字は字画が少ない「千」にした。