また年が明けた。今年は酉(とり)年だ。日本農業新聞を読んでいると、語源が紹介されていた。「酉」は酒壺をかたどった字だという。酒を醸造する器から転じて「成る」や「熟す」とか「老いる」などの意味を持つという。成熟していくのか、衰退するのか。野球選手にとって、すべてがリセットされる新年は引き締めねばならない季節だ。

 その点、阪神北條史也にスキは見られない。「去年よりも振り込んでます。鏡の前がいいんです」。オフも、動作を確認しながら素振りを継続する。実質1軍デビューだった昨季は打率2割7分3厘、5本塁打。遊撃レギュラーに向けて今年は分岐点だ。心に、よりどころになる言葉も刻む。

 「オフはマシン打撃よりも、素振りとかティー打撃がいいから」

 そう助言したのは金本監督だ。現役時、オフは1日1000スイング。北條もうなずく。「いいときのスイングは分かるようになっています。例えば次の日に良くなくても、戻せるようになってきた」。身につけた型は簡単に消えやすい。前年の活躍がウソのように不振に陥る選手も多い。理想の感覚をなくす怖さがある。失いたくないものがあるからこそ「不安はあります」と明かす。恐怖心は人を成長させてくれるのだ。

 実は、人生を変えるかもしれない1打席に出会っていた。11月末、契約後の会見で印象に残るプレーを問われ「8月13日の第1打席」と即答した。日付をそらんじるあたり、よほど衝撃だったのだろう。京セラドーム大阪の中日戦。1回、ライナーの二塁打を左翼線へ。興奮気味に振り返る。

 「軸で先に回転して、バットが後から出てきて。軽く、力を入れず、下半身で回って振れた。『回っただけ』で打てた。その時、アッ!となったんですよね」

 直後、右翼への二塁打と左翼へ本塁打。「それからです。長打が増えたのは」と認める。9月は3本塁打だった。伏線もあった。中日3連戦の前、金本監督から声を掛けられていた。

 「素振りに来い!」

 有望株が指名される直接指導。最大のポイントは、軸足で回ることだった。

 「ただ回るだけなら、左肩が開いたり、左足が割れる。前の壁を意識して、左肩が開かないのを我慢しながら右半身の軸は回っていく。最後に一気にバーンって振る。最初は全然できず軸足が動いてしまって…」

 体をねじる動作から、一気にパワーを解き放つ。悪戦苦闘していたが、力が抜けた、あの1打席で感覚が分かった。北條は「素振りの効果は、絶対にある。あれだけ真剣に毎日、形を意識してやるのは今まであまりない」と言う。野球で最も単調に映る練習メニューだ。“面白くないこと”に没頭できるひたむきさが、この若者の強みだろう。【酒井俊作】

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは@shunsakai89