寒風が吹き込む宜野座で紅白戦を見ていて、もう何年も前に藤川球児が話していたことが脳裏をよぎった。「クローザーは経験も大切だけど、セットアッパーは若くて勢いがないと務まらないポジション」。ウィリアムス、久保田とともに必勝リレー「JFK」の一角として中継ぎで05年優勝に貢献した後は、絶対的守護神に君臨。救援の適性を端的に表した言葉だろう。

 そうなのだ。グイグイ押しまくって連投できるピチピチの投手が、長らく現れない。金本阪神2年目も7、8回を託せるセットアッパー問題は懸案だ。だから、首脳陣は工夫する。「いろいろ考えてやってるよ」と話すのは投手コーチの香田だ。8日の紅白戦で、5回から左腕の岩崎と島本を交互に投げさせた。この日は右腕の石崎と歳内がマッチアップ。松田も8日に登板しているし、20歳代の候補の競争をあおっている。

 さて紅白戦である。総じて、力でねじ伏せようとする熱がまだ伝わってこない。この日は昨年12月の台湾ウインターリーグで防御率0・00のセーブ王に輝いた石崎に注目した。2回無失点だったが、無難にまとめた内容で、香田も「結果が欲しいからか、躍動感がない。石崎らしさが出ていない」と渋い表情だった。辛口は期待の裏返しなのだ。

 パワーアームの台頭はチームの課題だが、一筋縄ではいかない。球威と制球を兼ね備えるのが、いかに難しいか。一例を挙げたい。昨年夏の終わり、ベテラン福原(現2軍育成コーチ)が制球に苦しむ石崎をキャッチボールに誘う。力んで投げる姿を見て、諭した。

 「強い球だけのキャッチボールじゃ何もならない。ゆるい球を投げて、自分がどこで球を離したらいいのか、どこで力を入れたら、どれくらい伝わるのか。そういうところからやる方がいいと思う。ゆっくり投げれば投げるほど難しいよ」

 強い球を投げるために、あえてゆるい球を投げて練習する。石崎も「今まではとりあえず目いっぱいでした」と振り返るように、肩の力を抜く逆転の発想で制球力はアップしたという。だけど、いくらまとまっても、持ち味である150キロ超の球威が消えては意味がない。剛腕は1日にしてならず。まずは若さと勢いなのだ。石崎よ、荒々しく振る舞ってくれ。(敬称略)

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは @shunsakai89