プロ野球界に流れる時間は残酷だ。宜野座ではルーキーの小野が初めて打撃投手を務め、注目を集めた。主力と新戦力が大きく扱われ、伸び悩む選手は記事も小さくなっていく…。新人右腕の力投は虎番が書く。僕が焦点を当てたいのは伸び悩みながらキッカケをつかもうとする男の思いだ。

 衝撃デビューから7年がたった。歳月は流れるのが早いもので、秋山拓巳はプロ8年目を迎える。高卒1年目だった10年に4勝を挙げ、飛躍を期待されながら思い通りにいかない。この春は小さな変化があった。グラブには「AKI 46」の刺しゅうを刻む。愛着がある背番号27を外し「46」を新たに背負う。

 「ドラフト4位なのに27番をいただいた。結果も出ていなかったし、いつかは来るかもしれないなと。グラブにも背番号を入れていなかった。変わるかもしれんと覚悟はしていました」

 2年目以降は白星が2つ増えただけ。番号がないグラブは不安の表れだった。だが、吹っ切れたように続ける。「周りに心機一転と言われるけど背番号が変わったから頑張ろうというのはない。何かがいきなり変わることもない。いい状態を続けていくだけです」。ようやく胸を張れるようになった。それほど、沖縄で見違える姿を示している。

 2回無失点だった11日の紅白戦でも球を置きにいかず、思い切り腕を振った。制球にこだわり、小さくなっていた過去はない。本当に力強い速球を投げ、新人時代をほうふつさせる躍動感があるのだ。金本監督も「昨季の終盤から調子を維持している」と評価し、開幕ローテーションの5、6番手を争う位置づけだ。

 秋山は「ちょっとコツをつかんだ」と明かす。昨年8月、救援で4戦登板したときだ。踏み出す左足が着地した後も「もう1回、胸を張れている」感覚を見つけたのだという。ギリギリまで左肩は開かず、リリースで力を伝えられるようになった。「調子がずっといいとかじゃないんです」。この確かな手応えを8年目の開花につなげたい。

 2軍で球を捕ってきたブルペン捕手の横川雄介も言う。「真っすぐの精度が上がっている。角度もついているし、構えたところにキッチリ来る確率が上がっています」。さらに続ける。「もう、鳴尾浜で捕るのは飽きました」。最高のエールだろう。(敬称略)