まさか、だった。1-1の5回2死満塁。緊迫した場面を先発古川から引き継いだ。迎えた相手はプロ初登板で初めての打者だった中島。前回は「後手に回った」と四球。「背伸びせずに、自分に出来ることを」と言い聞かせた。スライダーを2球続けて、カウント1-1。最後は低め148キロ直球で二ゴロに片付けた。直後の5回に勝ち越し。「8回くらいから意識していました。古川には申し訳ないけど」。3球で1勝目をつかんだ。

 ウイニングボールを握りしめた右手。大体大2年時はフライパンを握っていた。「何か嫌になって」。大学2年途中から3年まで野球から離れた。バイトに打ち込む日々。ラーメン店「天風軒」では、右手でチャーハンを作り、左手で唐揚げ、ギョーザを同時進行で調理。かつて「調理場の番人」とまで呼ばれた男は、ファミレス「ガスト」でも勤務。笑顔で接客をそつなくこなす傍ら、どうしても野球のことが忘れられなかった。「やっぱりプロ野球選手になりたい」。遠回りしつつも、楽天から4位指名を受けた。

 大学時代、OBカブス上原浩治もつけた背番号「19」を背負っていた未完の大器。大先輩から言われた「プロは実力の世界。練習も大事だが、結果が全て」の言葉を自身に投影、結果をつかんだ。ともに開幕1軍入りした同期の森原、高梨は既に勝ち星を挙げていた中、「悔しい、うらやましい気持ちもあった」と後に続いた。「漫画は読みません。コマ割りの見方が分からなくて…」という純粋な一面も持つ浪速の“やんちゃ”ボーイが「中継ぎの番人」へ-。開幕から8戦、防御率は0・00。チャームポイントを磨き続ける。【栗田尚樹】