<日本ハム5-3オリックス>◇29日◇札幌ドーム

 苦悩のバットマンが一振りで決めた。大スランプに陥っていた日本ハム稲葉篤紀外野手(37)が劇的な1発で5カードぶり、今季2度目のカード勝ち越しへと導いた。6回に中越えへのダメ押し4号2ランを放ち、リードを安全圏の5点へと広げた。今カードから下位に打順降格していたが、6試合、23打席ぶりの安打で不振から脱出気配。巻き返しへの予感漂う、白星を呼び込んだ。

 快感が、久々に全身を突き抜けた。稲葉が確信のフルスイングをすると、小躍りするように駆けだした。「うれしかったですね。打った感触というか。(打球が)抜けたのは分かったんで」。高々と舞い、伸びる打球の行方を見つめた。バックスクリーンへの着弾を確認すると、右手を小さく振り上げた。最近は聞かれなかった快音でベンチを沸かせ、チームメートから手荒い祝福を受けた。

 最高の要所で、さく裂した。相手守備の乱れもあり適時打なしで2点リードの6回。直前の小谷野が中前適時打を放ち、つくった流れに乗った。なおも1死一塁。近藤の真ん中やや外寄り139キロ直球を、仕留めた。この打席まで22打席連続無安打と、長いトンネルに迷い込んでいた。「日本ハムに移籍してきてから初めてじゃないかな」という大不振を、感じさせない大仕事だった。

 予兆はあった。この日は気分転換を兼ね、仕事道具を一新。打撃用手袋は通常の白ベースの愛用品から黒へ、打席への登場曲も変えた。バットは、同じベテランの中嶋兼任バッテリーコーチの物を借用した。前回、本塁打を放った22日オリックス戦でも拝借。「バットをください、とお願いをした。いろいろなことをやりますよ」と、なりふり構わず、何かにすがるほど苦悩していた。

 持ち主の中嶋コーチはこの日、「大当たり」のヒヤリ体験に遭遇していた。捕手陣をファウルグラウンドで指導中に、高橋のフリー打撃の鋭い打球が下半身を直撃。男性の大事な部分よりもやや上で「惨事」には至らなかったが、ユニホームの上に跡が残るほどの痛打。場外戦で“バット”にジャストミートしなかったラッキーな恩人のツキをもらったかのように、勝負本番で、稲葉が快打を飛ばした。

 試合前には、福良ヘッド兼打撃コーチからリフレッシュするために、欠場での休養などのスランプ脱出の選択肢も示されたが、強い意思で出場した。「休んだら、自分自身にも負けてしまう」と向き合い、3試合連続で降格した下位打線で奮闘した。チームに5カードぶり勝ち越し呼び込んだ。梨田監督は「今はもう挑戦者」と位置づける最下位低迷の現状打破へと向かう、号砲になった。無邪気にはしゃいだ37歳の姿が、少しだけ反攻の芽を予感させた。【高山通史】

 [2010年4月30日10時42分

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