<西武3-2ヤクルト>◇19日◇西武ドーム

 西武石井一久投手(36)が古巣ヤクルトから初勝利をマークした。これで全12球団からの勝利で史上9人目。9回5安打2失点、136球の力投。11三振を奪い、通算40回目の2ケタ奪三振も達成した。サヨナラ勝ちを演出。4連勝のチームは両リーグで30勝一番乗りとなった。

 忘れかけていた領域だった。石井一は9回、先頭のヤクルト飯原に四球を許した。思うように制球できず、ボールが抜けた。「疲れてんなー、ボク」。130球超えは、ヤクルト時代の01年以来。体が言うことをきかなくても、気合で後続に向かった。最後の打者・吉本をこん身の138キロ直球で空振り三振にとると、グラブを激しくたたいて喜んだ。完全燃焼した136球に、片岡がサヨナラ打でこたえてくれた。

 9回のマウンドに上がるのは珍しい。分業制が確立されたメジャーを4年間経験し、先発の仕事は6~8回までと割り切っている。同点の8回まで118球。普段なら、遠慮なく交代を受け入れたが「監督に続投を聞かれて、いくと言いました。珍しく野球選手の負けず嫌いが出ましたね。そろそろケジメをつけたいと思っていたので」と意地の2年ぶり完投。9人目の12球団白星を達成し「9人もいるんじゃ、誰でもできますよ」。初めてじゃなければ意味がないとばかりに、鼻で笑ってみせた。

 古巣相手に力が入った。ただ、石川との投げ合いには複雑な部分もあった。同じ先発左腕でかわいがってきた後輩にまだ勝ち星がなく、悩み相談を受けたこともあったからだ。「勝負は勝負。でも野球人生は長い。僕だって1勝9敗の時もあったけど、そこから9連勝した。石川らしい投球をしていれば、きっと大丈夫」といつにない熱投に、激励のエールをこめた。

 記録には興味を示さなくても、三振にはこだわりがある。3回、宮本の適時二塁打で2点を先制された後は、粘り強くピンチを脱した。要所で奪った三振は、8回を除く毎回の11個。通算40度目の2ケタ三振も、昨季は1度しかなかったが「いつも6、7回で降りてるから、9回まで投げれば、まだ僕だってとれますよ」と力説した。以前ほどの球威はなくても、三振の取り方は熟知している。

 今年のオフは、ヤクルト本拠地の神宮から始動した。原点回帰の気持ちは、日米19年目の今も忘れない。古巣の思い出は数えきれないが「投手陣で花見した時は、場所とりをやったこともあります。僕の前世は奉仕する人だったんだと思います」。どこにいっても人気者。今季5勝はすべて西武ドームで挙げ、新たな本拠地ファンのハートをつかんでいる。12球団一番乗りで30勝に到達し「優勝旅行の過程でいえば、荷づくりを始めたくらいですか」。ハワイ優勝旅行を現実のものにするために、2年ぶりV奪回を見据えて“奉仕”し続ける。【柴田猛夫】

 [2010年5月20日8時36分

 紙面から]ソーシャルブックマーク