<広島2-7阪神>◇3日◇マツダスタジアム

 待ってました!

 5番左翼でスタメンの金本知憲外野手(42)が1点リードの4回、右越えに15号2ラン。8月31日以来の1発で勝利に導いた。CSの短期決戦には、頼れるアニキの復活が大きなカギになる。存在感を見せつけた主砲が、V逸の悔しさをバネに日本一へ突き進む。

 打球の行方を追う必要などなかった。両手に残った感触。それがすべてを物語っていた。打席を飛び出した金本は、いつものように視線を下に落とす。白球は思惑通り、中堅右へと吸い込まれた。貴重な追加点となる15号2ラン。序盤、制球で苦しんでいた先発スタンリッジを楽にする一撃だった。

 「久しぶりにらしい当たりだった。スタメンで出るようになって、状態も上がってきてたからね」。和田打撃コーチも称賛する1発。その思いは金本自身も同じだったかもしれない。ゆっくりとダイヤモンドを1周し終えると、本塁で待ち構えていた弟分新井の両手を思い切り上からたたき、胸をぶつけるようにして喜びを表現した。グラウンドではめったに感情を出さない男が、珍しく満面の笑みを浮かべた。

 無理もない。今季は開幕前から右肩痛を抱え、思い描くスイングができないもどかしさの中でプレーしている。それでも常に前を見据え、決して下を向くことなく全力を尽くしてきた。優勝争いが佳境を迎える9月直前には「自分ができることをしっかりこなすことが大事」と話していたが、同15日の横浜戦(横浜)から首脳陣にベンチスタートを直訴。その影響もあったのか、9月は今年5月以来となる月間本塁打0という屈辱を味わった。

 通算450本塁打以上放つ男にしてみれば、27試合、73打席ぶりの1発が持つ“効力”は計り知れないものがあるのだろう。和田コーチは「ああいう当たりが出るまで、本人もしっくりこないものがある。(本来の)感覚を取り戻す1発になったと思う。(スイングに)強さも出てきた」と代弁するように話した。アーチストにとっての1発とは、周囲が思っている以上に大きな意味を持つ。

 金本の1発で勢いを付けた打線は2試合連続(今季77度目)の2ケタ安打を記録。終わってみれば3発7得点と、広島投手陣を粉砕した。チームも試合のなかった巨人を勝率で上回り、単独2位に浮上。残り3戦全勝すれば無条件で、本拠地甲子園でのCS第1ステージ開催権を得る。「(一時は)本来の彼とはかけ離れていた部分もあったが、そのギャップが埋まってきた。状況にもよるが(今後も)常に(試合に)出てもらうつもり」と和田コーチ。金本の復調は2位死守、CS突破への追い風となるに違いない。

 [2010年10月4日11時50分

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