<ヤクルト4-3広島>◇9日◇神宮

 離されてたまるか!

 ヤクルトが執念のサヨナラ勝ちで、首位中日との0・5ゲーム差を守った。同点で迎えた9回裏2死二塁から、福地寿樹外野手(35)が右安打。中日が巨人にサヨナラ勝ちした、わずか9分後の勝利だった。この日からスタメンに復帰した“肺炎のおっさん”ことチームリーダー宮本慎也内野手(40)が、5回にチーム初安打を放ち、反撃の糸口をつかんだ。最高のムードで今日10日から敵地での直接対決、4連戦に臨む。

 降りしきる雨を切り裂き、福地が放った打球が右翼に向かって伸びた。9回裏2死二塁、中日がサヨナラ勝ちした9分後。右翼手の頭上を越えた打球が転々と転がるのを見届けると、ベテランが我を忘れて右手を掲げた。ヒーローの元に、雨にも負けないペットボトルの水が舞う。すぐに、歓喜の輪に吸い込まれた。

 今季は左足ふくらはぎ肉離れ、左肩脱臼で2度戦列を離れた。長いシーズンの苦労は、こんな一打があれば忘れられる。「今年は1年間思うように野球ができない苦しみがあった。ファームで支えてくれた人、家族、みんなに野球ができる姿を見せたかった」と感激した。

 福地のプロ初のサヨナラ打で、ベンチを真っ先に飛び出したのは、40歳の宮本だった。二塁ベース付近で歓喜の抱擁を決める。「福地も今年は苦労していた」と、熱い言葉で祝福した。

 名古屋決戦を前に、役者が戻ってきた。サヨナラ劇の布石となったのは、宮本のバットだ。人生初の肺炎を患い、4試合欠場。先発復帰すると、神宮に響く熱い「慎也コール」で迎えられた。まだ微熱は続く状況だが、出場を志願。3点を追う5回無死、「とにかく出たいという気持ちだった」と、熟練された右打ちでチーム初ヒットを放った。

 大事を取ってここで代走を送られたが、ベテランの背中にナインが続く。連続安打で無死満塁とすると、ユウイチ、青木の内野ゴロの間に2点を返した。5回までに1点差に迫り、得意の接戦に持ち込んだ。

 4カ月ぶりに首位陥落した夜、宿舎のホワイトボードにメッセージを書き込みナインを激励。ケガで離脱していた福地を励ましたのも、宮本の言葉だった。福地は「メールですぐに早く治せと言われました。必ず終盤に勝負の時が来ると。励みになって、あの時のことを思い出しました」と声を詰まらせた。

 ベテラン勢の活躍に加え、5回は青木がホームクロスプレーで脳振とうになりながらプレー。チーム全員で、大きな1勝をつかんだ。小川監督は「うちは勝っていくしかない。(福地は)ケガもあって苦しんできたシーズンだけど、ベテランの力が必要になる時がくる」とたたえた。

 中日と0・5ゲーム差のままで、敵地での4連戦に挑む。宮本は「よっしゃ、名古屋に行くという気持ちにみんながなれた」と、会心の勝利を喜んだ。復帰試合に合わせて、帽子のつばには「心をひとつに!」と書き込み、復帰したこの日の日付「10・9」を添えた。欠場した4試合の苦しみは忘れない。さあ、勝負の時。決戦を乗り越え、笑って神宮に帰ってくる。【前田祐輔】