日刊スポーツ評論家としてデビューした工藤公康氏(48)の最初の仕事は、西武渡辺久信監督(46)へのインタビューです。西武黄金期をともに支えた後輩監督のもとで、10年シーズンにプレーした経験から、昨季の奇跡的な逆転3位の采配、監督像に迫ります。「ナベちゃん」「工藤さん」と呼び合い、腹を割って対談しました。

 工藤

 2年前、西武に呼んでもらって、ありがとうございました。でも力になれなくて、気ばかり使わせてしまって、監督、すみませんでした(笑い)。

 渡辺

 何を言ってるんですか、工藤さん。僕もうれしかったし、たくさんの西武ファンが喜んでくれた。

 工藤

 FAで出ていった身だったし、またライオンズに戻ることができるとは思ってなかった。

 渡辺

 横浜退団の後、六本木で一緒にメシを食いましたね。そこで、うちに来てくれませんかってお願いして。球団には、その場で電話をかけましたからね。

 工藤

 選手の立場から、「渡辺監督」という人間を1年間見たけど、現役時代とまったく違ったね。昔は短気な部分もあったのに、感情を押し殺して我慢してる姿が印象的だった。

 渡辺

 言いたいけど、のみ込むところはありますね。自分が監督に言われて嫌だったことはやらないようにしています。

 工藤

 おれだったら、ガーッと怒って選手を萎縮させるような場面でも冷静に話してたし、ああいうふうに事実を言われると胸に響く。選手の心理をうまく考えて話をしていた。

 渡辺

 指導者になって何度も失敗して、日々勉強です。レールを敷くんじゃなくて、きっかけづくりですよね。こうしたいっていう方向付けができれば、あとは選手が考えて頑張ることですから。

 工藤

 昨年の逆転3位は見ている方もドキドキした。最後10試合くらいのモチベーションは異様に高かった。相当気合を入れたのかなとか、どうやって選手の力を引き出したのかと思って見ていたよ。

 渡辺

 おととし、優勝直前で負けて2位になった時、負けた試合の後によくミーティングしたじゃないですか。それが、勝たなくちゃいけないというプレッシャーを与えてしまった。二の舞いになると思って、昨年は逆にやらなかったんですよ。選手には言わなかったけど、コーチ会議ではガッと言って、選手には間接的に伝わっていたと思います。監督が直接言うと影響力がある。監督として、戦術を学びましたね。

 工藤

 おれたちがいたころは、ミーティングで毎日のように「これからだぞ、これからだぞ」って言われてたよね。

 渡辺

 当時の西武は、大人の球団だったからできた。厳しい言葉で言われたことをかみ砕いて、解釈できるチームにはまだなってない。

 工藤

 やりやすい環境をつくるのに、あえて「言わない」というのは新鮮だった。今年で5年目になるけど完成度はどれぐらい?

 渡辺

 7~8割ですね。1年目はたまたま勝っちゃいましたけど、12球団で選手が一番若い。昨年は、こんな力があったんなら始めから出してけよと思ったけど、それが野球。みんな本気なんだけど、空回りする。本当の力があるというのは、本気の気持ちがそのまま出せる。そういうチームにしたい。

 工藤

 信頼関係がないと、驚異的なあのラストスパートはなかった。2軍から選手と汗水流して一緒にやって。ナベちゃん、秋山さんとかはおれのなかで教科書になってる。2軍のコーチから1軍の監督にというのが、指導者としては理想だと思ってる。

 渡辺

 昨年、DeNAの監督の話が出たじゃないですか。報道では決まったと思っていました。

 工藤

 信頼関係が築けなかった(笑い)。ケガをしないシステムぐらいはつくりたかった。そこだけだったけどね。昔から生意気で、言わなくていいことも言っちゃうタイプだから。

 渡辺

 譲れない部分ってあります。将来的には、どこかの監督を絶対やってくださいね。現役時代の僕に指導者のイメージがないでしょ。自分の感覚だけでやってたし、ちゃらんぽらんで、人に教えるなんて考えたこともなかった。それが今、指導者としてやってるんですから。工藤さんは理詰めで、指導者の感覚をもってやってきた人。野村(克也)さん(元楽天監督)に匹敵すると思ってます。

 工藤

 最近は成績が悪いとすぐクビを切られる。ナベちゃんには、昔の監督みたいに長くやってほしい。

 渡辺

 勘弁してください。寿命が毎年2、3年縮んでるんですから。監督って肩がこるんですよ。投げる方も、打つ方も1球1球、力が入る。1試合で約260球です。1年目にマッサージチェアを買ったんですよ。現役の時に、全くマッサージの必要のなかったこの僕が。東尾さんが胃薬が手放せないと言ってた意味がよくわかりました。何十年もやる仕事じゃないから、やってる間は一生懸命、悔いのないようにやろうと思ってます。

 工藤

 今年は西武が優勝候補の筆頭と思っています。キャンプから行くので、またいろいろと勉強させてもらいます。よろしくお願いします。

 ◆テレビ放送

 インタビューの模様は2月11日(土)午後11時~、BS朝日の人気番組「SUZUKI

 presents

 極上空間」で放送される。ドライブしながら話すというコンセプトで、西武黄金期を支えて“新人類”と呼ばれた2人が、今だから話せるプレミアムトークを連発。現役時代に合同自主トレを行った伊豆で、思い出のカラオケ「雨の西麻布(とんねるず)」を熱唱するシーンは必見だ。新聞で書き尽くせない話題満載の内容となっている。