名手のメス!

 阪神新井貴浩内野手(35)が7日、キャンプ視察に訪れた広岡達朗氏(79)から2時間に及ぶ送球指導を受けた。昨年は送球難に苦しみ、オフはスローイング矯正を課題に取り組んだ。往年の名遊撃手のアドバイスで、1日にして、さらに変身。不動の「4番サード」が見えてきた。

 名医による2時間の手術は成功に終わった…。例えるならば、こんな感じか。新井がわずか1日で華麗なスローイングを身につけた。室内練習場に現れると、その後にキャンプ視察に訪れた広岡氏が南球団社長とともに登場。物々しい雰囲気の中で、異例の特守が始まった。

 広岡氏

 送球でうまくいかないのは、手順の大切さを知らないだけ。順序を間違わなければ、スムーズにいく。

 パイプ椅子に座り、ネットに投げることから練習はスタート。立ち上がって、距離を少しずつ延ばし、最後は和田豊監督(49)のノックで実践。新井は合計404球を投げ、112本のノックを受けた。2時間後の姿は別人といっていいほどだった。

 新井

 捕るのも投げるのも、一連の動作でということ。かみ砕いて説明してもらって、すごく分かりやすかった。手応えはもちろんある。

 昨年は安定感を欠いた送球に苦しんだ。不自然な投球フォームから右肩に痛みが生じたこともあった。オフの大きな課題ととらえ、スローイングの矯正に自ら取り組んできた。この日はさらにステージを上げる機会になった。

 広岡氏

 力強いと感じるフォームはどこかに力が入っている。スッと投げられると肩は壊れない。故障は自分に原因がある。警告だ。

 肩や肘を痛めれば、打撃にも悪影響を与える。新井は一塁でゴールデングラブ賞を獲得した実績もあり、決して下手ではない。送球は失敗を繰り返すと精神的な重圧もかかり、リズムを失ってしまう。原点に立ち返り、自然なスローイング動作を取り戻した。「捕る」「投げる」の動作を切り離すのでなく、一連の動きの中で完了させる。明日9日に80歳を迎える広岡氏の実演指導に、驚きを隠せなかった。

 新井

 すごい、すごい。本当にすごい。実演して何度も見せてもらった。

 守備に安定感が出れば、打撃にもプラスに働く。2月7日のビフォー・アフター。「4番サード」が不動となれば、和田阪神の屋台骨は揺るがない。【田口真一郎】

 ◆広岡達朗(ひろおか・たつろう)1932年(昭7)2月9日、広島県生まれ。呉三津田高から早大へ進学。54年に巨人に入団し、新人王、ベストナインを獲得。ゴールデングラブ賞(前身のダイヤモンドグラブ賞を含む)が創設される前の時期に、阪神吉田義男とともに華麗な遊撃手として活躍した。現役13年間で日本シリーズ、球宴に各8回出場。66年に引退後は広島、ヤクルトのコーチを務め、76年にヤクルト監督就任。78年ヤクルトを初優勝、日本一に導く。82年から西武監督を務め、4年間で3度リーグ優勝(日本一2度)。その後はロッテGMなどを経て現在は野球評論家。