<広島1-1阪神>◇12日◇マツダスタジアム

 これぞ秘打、神ワザ打!

 阪神桧山進次郎外野手(42)が魅せた。1点を追う7回、ノーヒッター広島前田健の直球にバットを止めたが、打球はフラフラと遊撃梵のグラブをかすめ、中前に…。セ歴代5位タイとなる代打通算93打点目は、千金の同点適時打になった。試合は延長10回1-1のまま今季3度目のドロー。ツイてる阪神は首位を守り甲子園に帰ってくる。

 これぞ神業だ。前田健の初球、外角低めに沈むチェンジアップ。桧山は始動したバットにストップを指令したが…。止めたバットにコツンと当たった打球は中堅前方にフラフラ上がった。遊撃梵が間一髪で左腕を伸ばすも、グラブを弾いてポトリ。白球が中堅左に転がる間、二塁走者マートンが三塁ベースを蹴った。「代打の神様」が終盤、ひと振りならぬ「ひと止め」で試合を振り出しに戻した。

 桧山

 代打で初球にあんなスイングをしてしまって、1番後悔するところだったけど、最高の結果になってくれたね。

 前回6日DeNA戦でノーヒットノーランを達成した男を相手に6回を終えて無得点。1点を追う7回2死一、二塁で代打登場し、今季初打点は値千金の1点をもぎ取るとは、さすがだ。その初球にかける闘志が同点適時打を導いた。

 桧山

 そう(初球を打つと)思っていたけど、ちょっとスイングが中途半端になってしまって…。ありゃ、と思ったけどね。

 日々、1打席どころか、その初球に運命を懸ける。プロ21年目、代打業歴も長くなった。経験則に照らし合わせた時、ひとつの確信があぶり出されたという。以前、こう話した。「打つべきボールを1球見逃して、また打とうと思うやろ?

 そういう時は大概ファウルになる。いかに1球で仕留められるか、なんよ」。フリー打撃では通常の打席より前に立つ。バットを短く持つ。すべてはファーストストライクのための努力と言っても過言ではない。この日も初球にかける思いが幸運を呼んだ。

 昨年11月、イベント中のアクシデントで左鎖骨を骨折。病院で診断が下された時、医者や周囲が開幕絶望を受け入れる中、桧山本人だけは「オレは間に合うと思うよ」と宣言して驚かせた。骨にいいとされ、うなぎなどに含まれるビタミンDやカルシウム、日光の摂取を心掛け、不安や焦りをコントロール。宣言通りの開幕1軍スタートを果たした男だから、野球の神様がほほ笑むのも当然だ。

 家に帰れば、愛妻と2人の愛息が待つ。家族思いのパパとしても有名だが、遠征先からお土産を持って帰ることはまれだという。「よっぽど、おいしいモノを見つけたら別やけどね。基本は持って帰らんよ。仕事で行ってるんやから」。そう、グラウンドでの勇姿が最高のお土産だ。

 桧山

 アンちゃん(安藤)も粘っていたから、追いつけて良かった。

 チームは引き分けで単独首位をキープ。試合後は照れ笑いでホッと胸をなで下ろした。代打での通算93打点はセ・リーグ5位タイ。虎の神様はやはり、12年も神様だった。【佐井陽介】

 ▼桧山が代打の通算打点を93とし、セ・リーグ5位タイに浮上した。球団最多の八木98にあと5。桧山は昨季、代打で8打点を挙げており、更新の可能性は十分。また、通算代打安打数137はセ3位。昨季17安打の桧山は、2位浅井樹の154超えの期待もかかる。