<阪神9-9ロッテ>◇30日◇甲子園

 阪神が6点差を追いつき、引き分けに持ち込んだ。立役者は3番鳥谷敬内野手(30)。6点を追う4回に右翼への適時二塁打で1点差に迫り、突き放された6回に中前適時打で2点差に迫った。8回には左犠飛で1点差に迫るなど、今季初の3安打4打点。「投高打低」でおとなしい試合が続いていたけど、ドキドキワクワク、ああ、楽しかった!

 まばゆい照明の下、黄色いメガホンが揺れに揺れる。その時、甲子園に足を踏み入れたファンは「阪神、勝ってるんか!」と勘違いしただろう。まさにお祭り騒ぎだった。ジワリ、ジワリ…。6点ビハインドから虎戦士1人1人がつないだバトンを、鳥谷は決して離さなかった。諦めない-。もう言葉は必要なかった。

 鳥谷

 まだ回も浅かったんで。まだ行けるというか、1点ずつ取っていけば、と思っていた。

 4回だ。1-7と突き放されながら、運も味方に3安打1失策1四球で2点差まで詰め寄った。なおも2死二塁。2ボール2ストライクから泥臭く食らいついた。グライシンガーの真ん中チェンジアップに体勢を崩され、右手1本でバットコントロール。ライナーで一塁線を抜いた。いよいよ1点差に迫る適時二塁打で今季最多タイの1イニング5得点を記録。追撃ムードは最高潮まで高まった。

 何度ボディーブローを受けても立ち上がる。そんな虎の象徴だ。再び3点差とされた6回1死満塁では4番手内のカットボールを中前適時打。2点を追う8回1死二、三塁では左犠飛を放ち、同点劇をお膳立てした。初回1死二塁では先制の左中間三塁打も記録。今季初の猛打賞&4打点で猛追劇の主役を張った。

 常に勝利だけを欲する、ブレない心が武器の1つだ。5月25日のソフトバンク戦。2点リードの8回1死二塁、目の前で同じ左打者の代打桧山が敬遠気味の四球で歩いた。点差や右左などの条件を考えれば、珍しいケース。熱いモノがこみ上げてもおかしくないが、やはり冷静だった。「打席に入れば、いつも一緒。1年を通して気持ちの振れ幅はない。あの時も敬遠かぁ、(塁を埋めて)ゲッツーを狙ってくるのかなと思ったぐらいで」。直後に左翼へ2点二塁打。強靱(きょうじん)な心があるからこそ、どんな場面でも実力を発揮できる。

 鳥谷

 個人的には最後になんとかしたい、というのがあったんですが…。チームとしては負けなくて良かった。今日の引き分けがいいか悪いかは明日。明日勝って、いいモノにしたい。

 同点で迎えた9回裏2死満塁では遊ゴロに倒れ、サヨナラ劇を逃したことを悔いた。とはいえ、だ。6点差以上を追いついたのは阪神では10年4月13日巨人戦以来、約2年ぶり。3時間52分の激戦を終え、最後まで普段通り冷静に受け答えした鳥谷。胸の奥に秘めた闘志、悔しさは再びプレーで表現する。【佐井陽介】

 ▼鳥谷の猛打賞は11年9月23日巨人戦(甲子園)以来で、通算81度目。1試合4打点以上は、10年8月29日ヤクルト戦(神宮)で5打点して以来、自身11度目。